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「無固定期間労働契約のインパクトと解決策」vol.8 今後、外商投資企業、特に生産型企業の雇用形態について 

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2007年08月17日

弁護士法人キャスト糸賀
弁護士 村 尾 龍 雄


■Q8 今後、外商投資企業、特に生産型企業の雇用形態はどのような類型にシフトしていくことになると予想されるでしょうか。また、当該類型にシフトしていくプロセスにおいて、いかなる問題があるでしょうか。

■A 今後、外商投資企業、特に生産型企業の雇用形態は、雇用ピラミッドの頂点に総経理、副総経理を中心とする高級管理職員の全部又は一部(当該一部以外の部分は、企業の経営自主権の行使として、高級管理職員でありながら、なお臨時的、補助的、代替的な業務職位であるとの位置付けがなされた者【17】)の労働契約締結組が位置し、その直下に高級管理職員の一部(高級管理職員の一部がなお臨時的、補助的、代替的な業務職位とされる場合における当該一部)並びに非高級管理職員である人材及び労働力の全部が原則として労務派遣組として位置付けられるという雇用ミックスに移行すると思われます(例外は2008年1月1日の時点で既に連続10年勤務の要件を具備した労働力等)。

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  もっとも、現在、既存会社が労働契約を締結している労働者が臨時的、補助的、代替的な業務職位にある場合、上記ピラミッド型の雇用ミックスに移行するとしても、当該労働者をいかに説得し、労務派遣にシフトさせるかが問題となります(新設会社は、当初より雇用ミックスを念頭に人事設計ができますので、当該問題については考慮する必要がありません)。

 以下ではこれに関する2つのポイントを解説しますが、実務的に実施する場合にリスクをゼロ化することはできませんので(だからといって、労働契約をそのまま継続すれば、代わりに、突如、無計画な無固定期間労働契約化のリスクが現実化することになります)、最終的には各外商投資企業で具体的にどうすべきかを考えていただくほかないという結論に至ることをあらかじめ正直に申し上げます。

1、労働者の説得手段(その1)

 労働契約を締結している法的地位を被派遣労働者の法的地位に移行させることは、一般的に不利であるとの感覚は誰しも持つところですから、単に「どうでしょうか」と尋ねただけであれば、必ず「嫌だ」という反応が返ってくると思われます。このように相手方が嫌がっていることを実現するためには、(a)相手方に代償措置(通常、経済的な代償措置)を講じるか、(b)相手方の意見にかかわらず、強制的に実現する手段があるかのいずれかの可能性しかありません。

 そこで、まず(a)について検討すると、労働契約を締結している労働者を説得の上で、合意解除契約を締結し、過去の稼動年数に応じた経済補償金【18】を支払い、その上で労務派遣にシフトしてもらうという方法が代償措置として考えられます。これは経済補償金の支払いにより、過去の稼動年数を一旦リセットできることを意味しますし、労働者としても一時に経済補償金を手中にできるメリットがあることから、安定性の高い方法であると思われます。

 しかし、この方法には、一時に多額の経済補償金が発生するという外商投資企業のデメリットがあります。当該デメリットは労働者数が比較的少数である場合には、受諾可能なものかもしれませんが、労働者数が極端に多い生産型企業では、経済補償金総額が巨額になることより、軽々に受諾を決定することは到底できないでしょう。

 そこで、次に(b)について検討すると、少なくとも現在、労働者と固定期間労働契約を締結している外商投資企業は、原則として次回更新時期において雇止めをする権利がありますので(例外は次回更新時期が2008年1月1日以降で、かつ、その時点で労働者が連続10年勤務の要件を具備している場合)、労務派遣への移行を拒絶する労働者について雇止めをする旨を通知することにより、半ば強制的に労務派遣への移行を実現することが考えられます。

 しかし、このような方法は日本企業のメンタリティには合わないことが多く(外商投資企業の出資者の所属する国家又は地域によっては、何ら躊躇なく上記半強制的移行を実施する可能性がありますが、終身雇用が自国の雇用文化である日本企業の場合は、ここまでドラスティックな対応をするのには心理的なハードルが相当高くなります)、また労働者の心理に大きな不満を残すことになり、今後の労務紛争の原因を形成するリスクがあります。

 もっとも、熟考の末、結果的に(b)に踏み切らざるを得ないと判断する日系企業は相当数あるはずであると推測されます。その場合に労務リスクを低減するための努力として、(a)のように経済的代償措置を用意することはできないとしても、雇用ミックスに移行し、労務派遣を有効に活用しなければ、中長期的には工場閉鎖となり、全員が失業する憂き目に直面し得ること、被派遣労働者でも、2年の固定期間の雇用保証を享受でき、これは従前の1年の固定期間と比較して有利なことを説明することに加えて、例えば次のような説明を付け加える工夫が検討されてよいかもしれません。こうした周辺措置の充実は、(b)の選択を行う場合に必須不可欠のものであると思われます。

 (1)臨時的、補助的、代替的な業務職位から非臨時的、非補助的、非代替的な業務職位にシフトするための昇進ルールと人事考課制度の明確化、透明化を図ること

(2)昇進ルールに基づき、早期に直接労働契約の締結が可能な法的地位を得られるように、研修制度を充実させて、頑張った労働者にはより多くの機会が付与されるように配慮すること

(3)その結果、直接労働契約の締結が可能な法的地位を得た労働者について、被派遣労働者に移行する前の直接労働契約を締結していた時代の稼動年数を連続10年勤務ルールとの関係で算入するルールを創設すること

  結局、労働者の説得を諦めて現状維持のまま推移することを選ぶか(この場合、中長期的な工場閉鎖の選択となる可能性があります)、経済的代償措置を覚悟するか、(周辺措置の充実によりリスク低減を図る努力はするにせよ)日本企業のメンタリティを克服すると同時に、一定の労務リスクを覚悟して、ドラスティックな選択をするかという3つの選択のいずれにも一長一短があり、各外商投資企業が本社経営陣の価値観や各企業の経営状況その他の諸要素を総合的に勘案して、いずれの方法を採用するかを悩んだ末に決めるほかないというのが結論となります。

 

2、労働者の説得手段(その2)

 労働契約を締結する法的地位を被派遣労働者の法的地位にシフトさせることを決定する場合、上記(a)、(b)いずれの方法を採用するにせよ、その説得を誰が行うかという問題が残ります。

 この点について、中国語が流暢な日本人経営幹部がいたとしても、その説得を日本人が実施するのには俄かに賛成できません。いかに経営合理であるとしても、労働者に不利益となり得る選択を最初に話すのが日本人であるというのは、アプローチとして反感を煽るリスクがあります。少なくとも根回しをし、労働者のコンセンサスを得る段階においては、中国人経営幹部がこの説得の任務を担うべきものと思われます。当該中国人経営幹部は非臨時的、非補助的、非代替的な業務職位を有する総経理、副総経理、高級管理職員であり、少なくとも自らは労働契約を締結する法的地位を保持できる労働者であると思われますが、自らが当該法的地位を享受しながら、労働力である労働者等には被派遣労働者へのシフトを促すというのですから、当該中国人経営幹部は相当程度、労働力である労働者等の信任を得ている者でなければならないでしょう(そうでなければ、中国人経営幹部ですら反感を買う可能性があります)。

 巷間、中国人経営幹部の登用の必要性が叫ばれて久しいのですが、多数の企業においてその実現はなお初歩的段階にとどまると思われます。しかし、こうした緊張を強いられる場面でこそ、こうした有能で、労働者の信任も得ている中国人経営幹部が真価を発揮するのであって、その有無、多寡は労働者の説得の成否に大きく影響するものと思われます。各企業において、中国人経営幹部の登用をどの程度熱心に行ってきたかがここで問われることになっていると言ってよいでしょう。
 
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【17】前述の通り、労働及び社会保障部の部門規則で別途制限がなされない限り、こうした選択も適法であると思われます。
【18】労働契約法第47条参照。

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