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~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第53回 上げたら降ろすのはかわいそう!?

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2012年10月26日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
 

 日本の多くの大企業では、「上の役割に上げたら降ろすのはかわいそう」という考え方と感覚が一般的です。

 特に、業績が低迷しているときは、組織は縮小均衡状態になり、会社は課長の「イス」を容易に増やすことはできません。そうすると、係長が長期間滞留することになるので「係長がかわいそうだ」という感じ方が浮上してきます。その結果、会社は係長の中で優秀そうな人に「資格」色の強い課長代理という「呼称」を与え、給与を少し上げモチベーションを維持しようとするのです。

 終身雇用的慣行を踏襲している比較的大きな日本企業では、採用した社員を38年かけて育成していくことが一般的なため、「上」が詰まりやすく、通常、タイムリーに優秀な人材を登用することが難しくなります。その結果、課長が異動になれば課長代理が課長になるという「順送り」で段階的なステップを踏む登用が当たり前になりがちです。実際、係長の中の優秀そうな人は課長でもすぐに十分役割を果たすことができる可能性が高いのですが、「上」が詰まるため「順番待ち」していることが多いです。そして、「順番」が来て課長に上がれば、規則や法令違反などよほどのことがない限り職を解かれることはないという考え方が形成されていくのです。

 このような実態が「一度上げたら降ろすのはかわいそう」という考え方と感覚を一般化させる大きな原因になっていると思います。しかし、現実は、終身雇用的慣行に起因する「上詰まり」よりも、課長としてできそうかどうか「様子を見ているのだ」という「表面的な」考え方に「転じて」しまっていることは大変興味深いです。

 一方で、折角「様子を見た」のに課長にしてみるとパフォーマンスが良くないケースもあります。しかし、降ろす(=職を解く)のはかわいそうだという考え方が災いして結果的に、「えっ、どうしてこの人が課長なの?」と感じる人が課長の「イス」に座り続けるケースがあるのも事実です。

 このようなケースの本質的な原因は、「降ろしたいが降ろしてしまうと、自分のマネジメント力や育成力が低いと評価されてしまう」と、上司の部長が感じてしまうことなのです。だから、部長はこの課長を育てようとするのですが、最大の問題は「明確な期限がない」ことです。自分が上司でいる間は直接「手を下したくない」ので、「育成中」という言葉のもとで、ズルズルと自分の後任者に引き継いでしまうことが実際は多いと思います。確かに部下を育てることは上司の役割ですが、合意した改善課題などを「基準」に「期限を設けて」育成し、ある時点で、良し悪しを明確に判断することこそが、上司としての重要な役割であり責任です。「降ろすのがかわいそう」というよりも「自分の評価が下がるのが怖い」という心理の方がより強く働いているのが実情でしょう。

 さて、海外拠点では何が起きているのでしょうか?海外は日本と違って終身雇用的な慣行がないのですが、日本人駐在員の多くは日本で結果的に「常識化」している「様子を見るべき」という「表面的」な考え方で現地人材に接してしまっていることが大変多いと思います。

 課長の「イス」が空いているにも関わらず、日本人部長がある優秀な中国人を副課長にとどめている状況での興味深い実際の対話です。
日本人: 「□□の点は成長しましたね。課長で期待されていることがひとつずつ着実にできるようになってきていると思います。課長まであと一歩ですね。課長は他に○○と○○ができなといけないので、これらができるようになってきたら課長にしてあげますよ!頑張ってくださいね!」
中国人: 「課長になるためにもうずいぶん努力して頑張ってきました!課長にしていただければ、私、○○と○○がすぐにできるように頑張ります!」

 サッカーのJリーグでは毎年J1の下位2チームとJ2の上位2チームが自動的に入れ替えになりますが、折角J1に上がれても翌年下位2チームに入ってしまえばまたJ2に降りなければならない厳しさがあります。特に海外拠点でのマネジメントの場では、毎年ではなく数年の時間軸の中で「入れ替え」は十分ありえる前提で登用することが大切だと思います。その方が、組織に緊張感が生まれますし、日本人と違って、そもそも現地人材にはこのようなリスク意識と感覚が十分あるのです。

 

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