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「無固定期間労働契約のインパクトと解決策」vol.3 無固定期間労働契約の強制は日系企業にいかなるインパクトを与えるのでしょうか。

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2007年08月17日

弁護士法人キャスト糸賀
弁護士 村 尾 龍 雄


■Q3 無固定期間労働契約の強制は日系企業にいかなるインパクトを与えるのでしょうか。

■A 無固定期間労働契約の強制は日系企業、特に生産型企業に過去に例を見ない多大な影響を与えると考えられます。その2つの理由について、以下、解説します。

 まず、第1の理由は、無固定期間労働契約が突如強制される結果、世代ごとにバランスのとれた正社員配置ができないことです。すなわち、雇用文化として終身雇用が大原則である日本(バブル経済の崩壊後、派遣の占有比率が上昇したとはいえ、現在、なお3分の2超が正社員であると言われます)では、日本企業は、終身雇用を前提として、世代ごとにバランスのとれた正社員配置を行っています。ところが、中国における日系企業(外商投資企業)においては、1年に1回の雇止めの機会のある契約社員中心主義の雇用文化が横行していたところに、労働契約法の施行を契機として、突如、無固定期間労働契約化が強制されることになるのですから、現時点で存在する特定世代の労働者が集中的に正社員化し、世代バランスが完全に崩れることになるのです。

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 次に、第2の理由は次の通りです。すなわち、上場企業である中国企業を例にとると、本社には法務、知的財産、人事、総務、財務、経理、広報等の管理部門が多数あり、国内には複数の工場、支店、子会社、関連会社等を有し、今後、第11次5ヵ年計画の標榜する「自主創新」政策(中国企業が世界に通用する技術を有し、これを背景として世界に通用するブランディング、そして市場を確保していくとする政策)を背景に、「走出去」(「引進来(外資誘致)」を本質とする伝統的改革開放モデルから、中国企業が海外に飛躍することを奨励する政策)が活性化すると、海外にも同様の拠点を形成していくことになります。この場合、終身雇用化の結果、高年齢、高コストの正社員が増加しても、若手社員にないハイレベルの知識、知恵、経験により高付加価値サービスを提供する場(例えば管理部門のトップ、工場総経理)が多数あるため、正社員の適正配置が可能となります。もちろん、労働契約法施行により無固定期間労働契約が突如増加する結果、世代ごとのバランスが崩れた正社員化が進むことのインパクトは中国企業にも少なからずあると思いますが、経済成長がなお目覚しく、かつ、会社そのものの発展もここ数年で軌道に乗った場合が多数である中国企業の社員の増加ニーズは力強く、多様かつ多数の正社員配置の場と相俟って、そのインパクトを吸収してソフト・ランディングを図ることが可能であると思われます。

 これに対して、日系企業、特に生産型企業の場合は、全く異なる状況にあることが理解されなければなりません。すなわち、中国では計画経済の影響より、1企業1プロジェクトの原則が1980年代、1990年代に存在しました。これは、1企業は1プロジェクトにのみ従事し、複数のプロジェクトの実施を認めないとする原則です。計画経済時代には、国家がまずプロジェクト(例えば製鉄プロジェクト)を決め、その実施手段として旧国営企業(例えば宝山製鉄)を設立して、これに実施させるというアプローチがとられましたので、旧国営企業が儲かりそうだからといって、他のプロジェクトに手を出すということは到底容認されませんでした。当該原則は過去には外商投資企業にも徹底され、例えば家庭用と業務用の冷蔵庫は別プロジェクトであるから、別の合弁会社を設立せよ、家庭用と業務用の空調機も別プロジェクトであるから、別の合弁会社を設立せよ、さらに共通基幹部材であるコンプレッサー(圧縮機)も完成品(冷蔵庫・空調機)とは別のプロジェクトであるから、別の合弁会社を設立せよ、といった具合で、冷蔵庫と空調機のプロジェクトを実施するだけで、5つもの異なる合弁会社の設立を強制される例があったのでした。現在、日本の代表的な家電メーカーが数十社もの生産型企業を有しているのはそのためです。

 近時、この1企業1プロジェクトの原則は、審査認可実務上、相当に緩和され、例えば白物家電は1企業にまとめることが容認されていますが、外商投資企業が別の省に立地をしている場合、合併を通じて1企業にまとめあげていこうとすれば、合併の結果、支店化(分工場化)を余儀なくされる地方では、それまで管轄税務局に貢献してきた企業所得税や増値税の税収を全て本店となる地方に吸い上げられるというデメリットが生じるため、税務登記、税関登記の抹消プロセスにおいて、管轄税務局、管轄税関からひどいイジメに遭うことが予想され、法的には可能でも、実務的には合併に踏み切れないというのが実情となることが多いと思われます。

 ところで、こうした多数の生産型企業には法務、知的財産など多数の共通する管理事項があり、グループ・トータルとしての間接経費削減の観点より、投資性公司や上海に管理性公司を設立し、そこに全体の管理部門を集中させる傾向が近時、顕著です。また、「外商投資商業領域管理弁法」(商務部2004年4月16日発布、同年6月1日施行)の登場で、WTO加盟後3年を経過する2004年12月11日には外資企業(外商独資企業)の販売会社の設立が可能となった結果、製販分離政策が急速に進み、生産型企業には販売部門がなくなる例が急増しています。その結果、1企業1プロジェクトの原則の残滓である多数の生産型企業は、現在では管理部門を持たず、また販売部門ももたない、生産のみを行う工場と化しています(1企業=1プロジェクト=1生産工場)。

 さて、生産のみを行う工場において、高い年齢で、高いコストではあるが、その知識、知恵、経験を活用して高付加価値サービスを生み出すことのできる「場」があるでしょうか。仮にあるとしても、そうした「場」は、“超”団塊の世代的に、特定世代においてのみ突如集中的に形成される正社員全体を吸収できる程度の分量を有するでしょうか。答えは、例外なくNOではないか、と推測します(ワーカーが圧倒的多数を占める労働集約型工場ほど、NOの程度は一層顕著になると思われます)。

 そもそも生産工場の現場は、プロ野球と一緒で、優れた監督やコーチも一定数必要ですが、中心となるのは20歳代、30歳代の若い選手であるはずです。レギュラーメンバー全員が44歳でなお活躍するロジャー・クレメンス投手と同年齢である、ということはあり得ず、もしあり得たとしても、それはプロ野球集団ではあり得ません。ロジャー・クレメンスや過去のノーラン・ライアン投手、日本ではベイスターズの工藤投手は佐渡島のトキ並みの希少種だからこそ、話題になるのです。

ところで、プロ野球球団で終身雇用が導入されたらどうなるでしょうか。1軍も2軍も皆、定年までの安定的な雇用が保障されれば、総額予算規制のために若手の優秀な選手を採用することもできませんので、最初は強豪チームであっても、年数の経過と共に必ずや弱体化し、活性化を図ることが決してできないチームとなるでしょう。それなのに、年俸だけは据え置きどころか、クビにならないことをいいことに、年数の経過と共に値上げ要求が出てくるし、皆概ね同い年であることから仲良し集団化し、競争はしない、努力はしない、となれば、何時かオーナーはコスト高を吸収できるだけの広告効果を得ることもできない、結果として、負けてばかりのロートル球団など潰してしまおうと決意することになるかもしれません。

 さて、プロ野球で起こることが必定のこうした事実は、これと共通項の多い生産のみに特化する工場では決して起こりえない、という道理は成り立つでしょうか。

 「成り立つのだ」と確信する総経理、そして本社は、今後、労働契約法施行により突如、無計画にもたらされる無固定期間労働契約化を受け入れればよいでしょう。しかし、これは「成り立たない」と確信する総経理、そして本社は、この問題が巷間認識されるよりも、深刻であり、漫然と無固定期間労働契約化を受け入れることは、生産工場の緩やかな撤退決定に等しいことを銘記すべきでしょう。【6】

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【6】筆者の分析では、現状においてこの問題に無関心でいられるのは、外地人依存度が高く、全ての外地人が2年乃至5年で主として春節を契機として帰郷して戻ってこなくなる弊害に苦しんでおり、人員定着こそが最重要課題である深セン、東莞等の生産工場だけであると思われます。

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