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【ミニコラム 第137号】「子どもは“タダで産める”」という話の、その先にあるもの

メールマガジン
2025年12月19日


 最近、「生娃不花钱(子どもを産むのにお金がかからない)」という言葉をよく耳にします。
 中国国家医保局は、2026年までに分娩費用の自己負担ゼロを目指す方針を明らかにしており、出産にかかる医療費は実質的に自分で支払わなくて済む可能性が出てきました。各地で支給される育児補助金も合わせて考えると、たしかに経済的なハードルは下がったように見えます。これは素直に評価できる、前向きな動きだと思います。
 ただ、正直なところ、周囲の友人たちと話してみると、不安が減ったという実感はまったくありません。
 最近公表されたある報告書では、子どもを18歳まで育てるのに平均で約55万元(約1,200万円)かかると試算されており、その多くを教育費と住居費が占めています。出産時に数千元の補助が出るのはありがたいですが、本当に重いのは、その後に続く長期的な支出です。
 そして、お金以上に大きいのが「時間」の問題です。
 今の働き方では、週休二日すら安定して取れない人も少なくありません。そんな状況で、子どもと向き合う時間をどう確保するのか。こうした継続的な負担は、一度きりの補助金ではなかなか解消できません。
 個人的には、若い世代が「子どもを持っても大丈夫だ」と思えるようになるためには、
「育てられる経済力があり」「一緒に過ごす時間があり」「子どもによりよい将来を与えてやれると感じられること」
 この三つがそろって、はじめて「子どもを産むのにお金がかからない」という言葉が、実感を伴って響くのではないかと感じます。
 結局のところ、本当の意味での子育てに優しい社会とは、単発の給付ではなく、長く安心して暮らせる環境そのものなのだと思います。
 私たちが求めているのは、きっとそうした確かな安心感なのではないでしょうか。
 そしてこれは、中国に限った話ではなく、日本でも多くの人が同じような課題や不安を抱えている問題だと感じます。

 

三石


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