~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第28回 納期を守らない!~その2~
株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
依頼される側が納期を守ることができない原因には、時間に関わる「不安」と品質に関わる「不安」があり、先月号では、時間に関わる「不安」を中心にお話しました。今月は、品質に関わる「不安」についてです。
品質に関わる「不安」
「納期」という言葉は「時間」だけではなく通常、「品質」もセットになっています。現実の多くの場面では、「納期」という言葉のイメージと異なり、「時間」よりも「品質」の方がより重視されています。そして、約束した期限に「期待された」品質を伴って仕事が完了していることが「納期を守る」ということになるのです。従って、依頼される側は仕事の期限という「時間」も気になりますが、通常、期待されている「品質」をより一層意識することになります。しかし、この「品質」について自分の中で明確に理解し捉えることができない場合、「不安」を抱くことになり、その結果、行動速度が減速して納期を守ることができなくなる確率が高まるのです。
このような類の「不安」は国籍を問わず人間なら誰でも持ちえるものです。ただ、「不安」を感じた後の行動という点では、日本人と中国人(をはじめとする外国人)との間には大きな違いがあります。
一般的な日本人は、どちらかというと、期待された品質を「推測」し、過去の経緯や依頼者の思考・行動傾向までも踏まえて、自分なりに「解釈」の幅を広げて行動する傾向が高いです。なぜなら、日本の企業社会では、言われたことだけではなく、それ以上のことをしてはじめて高く評価されるという考え方が浸透しているからです。人によっては、推測や解釈に苦しみ、悶々とする時間が流れてしまうこともありますが、日本人同士はそもそも同質性が高いため、「品質」面で大きなズレが起きることは一般的には少ないといえます。しかし、同じ日本人同士でも世代や利害が大きく異なるような関係の中では、「不安」が「誤解」を生み、「納期を守らない」行動に繋がることも十分ありえるのが現実でしょう。
一方で中国人(をはじめとする外国人)は、期待されている「品質」に「不安」を感じた場合は質問して不明な点を明確にすることで自分の「不安」を取り除きます。日本人のように善意で「推測」し、「解釈」するような行動はあまりとりません。また、実際のところ、日本人と大きく異なり、そもそも「不安」を感じず、「はい、わかりました」と返事をして、「期待されたこと」を粛々と行うことが多いのです。彼らにとって、「期待されたこと」はイコール(=)「言葉で伝えられたこと」になり、同じ類の経験を多く共有している深い人間関係でもない限り、言外に含まれていることまで「推測」し「解釈」しようとする行動はとりません。特に、上司、部下の関係であれば、上司の存在は絶対的であり、上司は十分考えた上で適切な指示をしていると理解しますので、一般的には伝えられた言葉を「額面通り」受け取ることになります。その結果、「品質」を誤解することが多くなり、「時間」を守っても納期を守ったことにならないケースが多くなるのです。
では、質問された時に、改めて明確に説明することができる、あるいは、「品質」について誤解されないために、日本人はどのような行動をとる必要があるのでしょうか?
3つの原則
① 「内容」と「情報」を多く盛り込む
暗黙の了解、阿吽の呼吸などに代表されるように、日本人は言葉数少なくお互いに理解し合おうとする傾向があります。人の心を気遣うあまり、適切な言葉と表現で内容を正確に伝えるよりも、その場の雰囲気や状況を優先することが多く見受けられます。仕事の現場では「一を聞いて十を知る」人が評価される傾向もあり、短い言葉や抽象度の高い言葉で最低限のメッセージを伝えることが習慣になっている人も少なくありません。教育、日常習慣をはじめとしたバックグラウンドが異なる海外の人たちに十を知ってもらうためには、よほどの深い人間関係や長い協働関係がない限り、十以上、例えば、二十から三十を伝えなければいけないのです。「面倒くさい」と感じてしまう心の障害を乗り越えることが大きな課題といえます。
② 「主語」や行動の「主体」を明確に表現する
終身雇用という雇用習慣のものとで「会社のため」という大義名分が成り立ちやすい日本の企業社会では、個人よりも集団が優先され、ひとつひとつの行動の主体が誰なのかが不明確になりがちです。「会社が決める」「部門として判断する」「我々はこのように考えます」などの表現では、行動の主体が個人ではなく組織や集団になりがちです。会社=社長、部門=部門長ということであれば、個人名か役職名で表現しなければ、実際のところ、行動すべき人が行動を始めるまでに時間がかかることになり、物事を進めるスピードが遅くなるだけではなく、行動の責任の所在もわかりにくくなるのです。また、本来、「私は・・・」「貴方は・・・」と話すべきところ、自信がなく責任を回避しようとする心理が作用すると、つい「我々は・・・」「貴方たちは・・・」と話をしてしまい、相手は「誰の」意見や考えなのか、あるいは、「誰に」期待していることなのかがわからなくなることがよくあります。相手に期待することを伝え議論する時には、結果的に相手が行動を起こしてくれなければ意味がありませんので、「主語」や行動の「主体」を明確にすることが大切になります。
③ 伝える内容の「論理」と「構成」を明確にする
日本人が中国人(をはじめとする外国人)に仕事の指示内容について説明している場面や、質問に答えている場面で、話の内容を横で聞いていると、案外、「論理」と「構成」が曖昧なケースが多いことに気づきます。英語はもとより、逐語通訳をつけて日本語で伝えている場面でも同じです。
通訳者(中国では、多くは日本語が堪能な中国人)は日本人が話す日本語をそのまま訳しますので、伝える内容が論理的でなく、話の構成が明確でないと、とても通訳しにくいのです。その結果、相手の中国人は直訳された話の理解に苦しみ、誤解してしまう可能性が高まることになります。一方で、通訳者が気を利かして意訳してしまうと、伝える側の意図に反してしまった場合には、意訳した通訳者は後々日本人から「誤訳した!」と叱られることになります。
逐語通訳者に正確に通訳してもらうためには、伝える内容の「論理」と「構成」を事前に明確にし、自分の頭の中で明確な文章記述をもっておく必要があります。通訳者に話しながら、自分が何を伝えようとしているのかがわからなくなり、いつまでもだらだら話をしてしまうことは避けなければいけません。逐語通訳者を活用する場面では、話を短く切りながら話すことが大切ですので、伝える話全体のどの部分を自分が今説明しているのかという「居場所」を見失わないことが重要になります。そのためにも、期待する内容や伝えたい内容については、相手に話す前にノートにメモで整理し、その中で「論理」と「構成」が明確になっているかどうかをセルフチェックするという地道な準備行動を習慣化させることが鍵となるのです。この習慣を身につけると、人と対話をするあらゆる場面において、相手に「誤解」を与えることが少なくなります。