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~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第31回 部門間の連携がよくない! ~その3~

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2012年09月21日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
 

「違い」を土台に経営上の「求心力」を創る

 雇用慣行は人の思考と行動に大きな影響を与えます。日本社会での終身雇用的な慣行は組織で働く人の意識を「就社」へ、そして、行動原則を「会社のため」「部門のため」に導きます。一方で、諸外国の非終身雇用的な慣行は人の意識を「就職」へ、行動原則を「自分のため」に導くことになります。

 例えば、中国の日系企業(特に生産拠点)では、上層部は日本人、その下に中国人、という人材配置の構図が一般的です。そのため、ひとつの組織の中に2つの対極的な意識と行動原則が共存することになり、この2つはなかなか相容れない関係として対立し続けることになります。一方が正しく一方が間違っているという性質のことではないのですが、一般的な日本人駐在員や本社で中国ビジネスに携わる日本人の行動を観察していると、「中国人といえども日本企業で働いているのだから日本人の行動原則に従うべき」という感情的な思いから「抑え込む」「従えようとする」行動傾向が顕在化することが多いです。そうすると、お互い人間なので自然なことですが、心の距離は遠ざかってしまい、協働するための信頼関係を作ることは難しくなってしまいます。

 最近の政治的なもつれを差し引くと、日本企業は国内の労働コストや経済上のリスクを回避するために中国でモノを生産し、輸出、内販することで多くの経済的メリットを享受しています。また、企業としても生きのびるための「場」を得ていますので中国社会に感謝するのが筋です。他方、中国も日本企業が中国でオペレーションすることで消費が高まり、社会が成長し、さらに、税収が増えるわけですから日本企業に感謝するのが筋でしょう。このような経済的な補完関係を考えますと、もっと目線を合わせて相手を尊重し、対等な関係を作る行動が大切だと思います。

 そのための経営上の重要な行動は、「違い」について正しい相互認識ができる状態を作り、その土台の上で、「違い」を超えて幹部社員が一枚岩になることができる「求心力」を作ることなのです。多文化度合いの高い海外拠点はもちろんのこと、程度の差こそあるものの、多様性が高まりつつある日本本社や国内拠点でもこの行動は経営上必須であると言っても過言ではないでしょう。経営を実行するプロセスでは様々な効果的な「求心力」がありえますが、「会社業績を向上するための部門間連携強化」は多くの組織で課題認識がある事実を踏まえると、十分「求心力」になりえるものですし、その難易度が高まる海外拠点ではなおさらのことでしょう。

「かけ声」だけでは前進しない!
 
 部門間連携強化を「求心力」として機能させるためには、まず、経営戦略上の重要課題として正式に位置付け、社内で開示することが大切です。そうすることで事実上、経営者が社内で宣言したことになりますので、自らにプレッシャーをかけ、結果的に、その後の行動が起きやすくなります。ただ、経営層や幹部社員が「部門を超えてしっかりと協力し合おう!」「会社のため!という意識をもって協力し合おう!」といった具合に「かけ声」をかけているだけではなかなか前進しません。「やれ!」というような命令的な圧力がかかれば、日常の忙しさの中で意識の外に押し出されていた「会社のため」という大義名分をふと思い出し、たとえ気乗りしなくても行動が起きるかもしれません。しかし、これは部門間連携が強化されている状態とは程遠いものです。「会社のため」という大義名分が成り立ちやすい日本人同士でも現実は日常業務に追われ、「かけ声」を耳にして頭の中でぼんやり意識するだけでは、お互いになかなか自発的に行動しにくいものなのです。

お互いに「思考を見せる」活動を!

 いま目の前で求められている連携行動の背景としての「現状の問題」、それを解決する「目的」や「目標」について十分理解できていない時には、人は質の良い行動をとることはできません。質の良い部門間連携行動を組織の中で定着させていくためには、「現状」「ゴール」についての相互確認はもちろんのこと、それ以上に、連携して進めなければいけない仕事に関わる人たちの「思考」を見える状態にすることが大切なのです。上層部、ホワイトカラー、上工程の人たちの「思考」は概して見えにくいものです。「思考」が見えにくいと人間は不安になり行動にブレーキがかかります。また、お互いの「思考」が見えにくい中で物事を前進させるためには「推測」が必要になってしまいますが、実際は「推測」しているうちに人はその時間自体が「ムダ」で「意味がない」と感じはじめ、結果的に面倒くさくなってしまうものなのです。

 一方で、人は相手の「思考」が見えると、「そういうことを考えていたのですね!」「そういう段取りだったのですね!」「それくらいのタイムフレームなのですね!だったら・・・」という具合に反応します。相手が考えている内容、論理構成、時間軸などが「見える」とスッキリした感じになり、その瞬間、意識も他人事から自分事に変わり、さらに質問して確認する、協力依頼されていることを約束するなど、次の行動がとりやすくなるのです。つまり、自分が「頭の中を見せる」と相手は速く理解して行動にアクセルがかかる可能性が高まるということです。

活動展開のための「ルール」と「雰囲気」を作る!

 私はクライアント企業での多文化マネジメント支援の一環で、部門間連携強化のための「思考段取りの可視化セッション展開」を支援していますが、このような活動はそもそも「思考」が見えにくい上層部から始めることがとても重要です。新しい良い行動はまず上層部から身につけていくことが組織マネジメント上の鉄則だからです。また、セッションを展開していく中では次のようないくつかの「グラウンドルール(=参加者全員が守るルール)」を作って確認し、これらの行動の「源」は参加者ひとりひとりであることを強く意識づけておくこともとても大切です。

① 自分の意見を率直に(=隠さず、飲み込まず)発言する。
② 「質問」「意見・感想」「提案」のどれかをはっきりさせてから発言する。
③ 相手の意見に「反対」なのか「賛成」なのか立場を明確にする。
④ 行動を約束する時は、「やろうと思います」ではなく「やります」という断定的な表現をする。
⑤ メモをとる

 ルールを守らない人にその場で与える「罰則」も決めておくと遊び心も手伝ってセッションの雰囲気が和みます。さらに、8月号でお話しました多文化環境での「コミュニケーションの3原則」も活用するとより効果的です。


 「部門間連携強化」という経営上の「求心力」の効果を最大化するためには、その重要性を経営戦略の中で明確にし、お互いに「思考を見せる」活動を展開し、その上で、日常的にしっかりと「声かけ」がされるような状態を作ってくことが必要です。そうすることによって、結果的に、部門間だけでなく部門内も含め全社的に、そして国籍を問わず、働く人のコミュニケーション効率が高まり、スッキリ感の多い行動文化が形成されていくことに繋がっていくのです。

 

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