訪上海市障害者連合会 教育就業処劉駿処長
企業の障害者雇用を促進するため、キャストコンサルティング(上海)有限公司CSR事業部は、上海市障害者連合会教育就業処処長劉駿氏に対し取材を行い、目下の障害者就業の現状及び関連政策法規に焦点を当てて調査した。以下は、取材の重要点についての摘要である。
対象者:上海市障害者連合会 教育就業処処長 劉駿
取材者:キャストコンサルティング(上海)有限公司CSR事業部 林偉、崔雯婷、杜雪芹
取材日時:2007年12月24日
1. 現在の全国障害者人数及び就業状況
2006年の抽出検査によると、全国には現在8,296万人の障害者がおり、就業年齢層の障害者は3,400万人、このうち、未就職であるのは800万人である。
2.上海市における現在の未就業障害者人数及びその割合
2006年4月1日0時までの第2回全国障害者抽出調査の公開データによると、上海には約94.2万人の各種障害者がおり、市全体の総人口の5.29パーセントを占めている。この内訳は、視力障害者15.8万人(16.77パーセント)、聴力障害者25.9万人(27.49パーセント)、言語障害者1.1万人(1.17パーセント)、肢体障害者27.2万人(28.88パーセント)、知力障害者6.5万人(6.90パーセント)、精神障害者7.6万人(8.07パーセント)、多重障害者10.1万人(10.72パーセント)である。2006年末の統計データには、当市において評定を経て証書を所持している障害者は約26.9万人(約94万人の障害者の多くは病気により障害が残った老人であり、このような場合には往々にして障害証を受領していないため、数値の不一致を招いている)、このうち、就業年齢にある証書所持障害者は約16.8万人とある。また、この中の都市・鎮戸籍障害者は11.6万人(農村地域の障害者は、簡単な農作業等の活動に参加できるため、就業人口として算入していない。以下「就業人口」についても、都市・鎮人口のみを対象とする)であり、既に就業している障害者は8万人、深刻障害のために労働能力を有しない障害者が2.5万人いることから、実際に就業していない障害者は1.1万人とのことである。
3.証書所持障害者中の精神障害者、知力障害者、聴力障害者、言語障害者、肢体障害者、視力障害者の比率及び従事可能な作業の種類
就業していない障害者のうち、半数以上が精神又は知力障害者である。この中でも、精神障害者の就業は困難を極める。これは、精神疾病の変化性が高く、身体状況も安定性を欠くために、企業の負う責任が比較的重くなること、また、精神障害者は、企業が一定比率の障害者を使用する際に享受できる税収優遇政策に組み入れられていないことから、企業は一般的に精神障害者の採用に積極的ではないためである。
知力障害者の中の軽度知力障害者は、比較的簡単で流れ作業的な仕事(ホテルの清掃作業、スーパーの棚整理、倉庫での物品並べや整理・片づけ等)に従事することが可能である。
聴力障害者の長所は、周囲が騒々しい環境にあってもそれに負けることなく、平静さを保って作業できることである。例えば、ダイキン工業株式会社の上海支社では、騒音の非常に大きな生産現場をろうあ者専用生産現場と設定しており、既に2,30名のろうあ者がそこで作業に従事し、優れた結果を上げている。このことは、健常者にとっては耐え難い大音量の作業環境も、彼らにとってはまったく影響しないことを良く表している。また、広告デザイン、美術デザイン等の方面では、現在、上海電影動画製片廠がろうあ者を採用してアニメーションの原画デザインに参加させている。しかしながら、ろうあ者と健常者との交流方法がろうあ者就業の難点となっており、障害者連合会もその解決方法を熱心に捜し求めている。最近、障害者連合会の調整により、装飾装潢協会は大量のろうあ者を採用して基礎構造の内部改装設計に参加させることに同意した。この調整の過程において、健常者が顧客のニーズをくみ上げ、それを手話通訳によってろうあ者の設計担当者に集中して請負発注する方式を通じ、ろうあ者と顧客が直接に交流するという難題を回避でき、同時に人件費を抑え作業効率を上げることができるということが判明した。
肢体障害者の作業可能範囲は最も広範で、おおよそ業界・業種を問わずに作業に従事することができる。重度肢体障害者については、企業は肢体障害者の特殊性を考慮し、作業環境に一定の適切な調整(足の不自由な障害者には特殊な通路を設けて車椅子の通行を可能にする、座席の傍に手すりを設置する等)をすることによりその不便さを取り除くことができる。
視力障害者は、記憶力が良く、触覚・聴覚が鋭敏であるという特徴を有している。彼らは、的確に人体のつぼを探り当て、かつ、相手の健康状況を感知することができ、また、1度の会話により相手の基本的な状態を記憶し、ひいては相手の外見的特長を判断することすらできる。視力障害は、全盲と低視力の2種類に分けられる。低視力障害者の就業範囲は比較的広いが、全盲障害者の主要就業ルートは盲人按摩となる。しかし、現在盲人専用として開発されている「陽光コンピュータ・ソフトウェア3」の助けを借りれば、盲人であってもパソコンオペレーターや電話交換手等の仕事に従事することができる。このソフトウェアは、既に国際レベルの水準に達しており、コンピュータ・インターフェースを音声言語に転化して、盲人の視力欠損を補うことが可能である。
4.省又は市外の障害者の採用を就業比率に組み入れることの可否
組み入れることは可能である。「障害者就業条例」第8条第3項には、「雇用単位は、地区をまたいで障害者を招聘・採用する場合には、手配する障害者である従業員の人数に算入しなければならない。」と規定されている。ただし、障害者連合会は、当市の企業に対し、当市戸籍を有する証書所持障害者の優先的な採用を可能にするよう奨励している。目下のところ、当市にて実施されている障害者就業を支援し促進する関連政策文書は、基本的に、適用対象が当市戸籍を有する証書所持障害者となっている。
5.現在の障害者連合会就業センターと企業との相互作用状況(障害者と欠員情報をどのようにマッチングさせるか、等)
現段階での障害者連合会と企業との交流は多くないため、双方向の働きかけも活発ではなく、両者の間には依然として交流の場が不足している。障害者連合会の活動は「点」を対象にしたものが多く、ダイキンやマクドナルド、スターバックス、IBMといった世界的な有名企業と連絡を取り、障害者の就業を推進している。また、装飾装潢協会とも交流はあるが、全体的にはやはり個別に企業と交流しているため、多くの企業との接触が不足している。
このほかに、例えば聴力障害者の必要人数のみ連絡してくる等、企業側の需要が時としてあまりにも漠然としており、障害者連合会に対して具体的な職位情報及び要求を提出しないときもある。障害者連合会は、企業が障害者を従業員として招聘する際には、具体的な職位及び業務内容、詳細な招聘の意向をはっきりさせた後に連合会の就業センターと適時に連絡を取り合い、専門員にどの職務がどういった障害者に適しているか、配属前にはどのような技能について訓練が必要となるか等の分析を依頼することが望ましいと述べている。必要人数が多く、一定の規模に達する場合には、障害者連合会は、障害者専用の就職説明会を開催し、無償の申し込み受付による養成訓練も行うことが可能である。
6.障害者連合会の企業に対する要請
①,障害者への認識を高め、古い考え方を改めて彼らの要望を理解することにより、彼らの価値を作り出す。
②,合理的な役職設定、利用者に配慮した付属設備のあり方とすることにより、障害者の作業に関する壁を取り払う。
③,現在、大部分の企業が招聘している職位は、全てサービス性の業界のものであり、職種構造が単一であるため、招聘範囲を広げると共にその職種も増加させる。
④,作業する職務の必要に従い、企業は障害者の技能について焦点を絞った訓練を実施する、又は市の障害者連合会へ訓練実施を申し込む。
7. 企業に対する障害者連合会の期待
以下のようなハード面とソフト面に期待を寄せている。
ハード面―バリアフリー設備の建設と設計範囲を拡大するソフト面―考え方を改め、障害者の心のケアに配慮し、同一業務同一報酬を実施する等。企業は、障害者が迅速に作業環境に溶け込めるよう支援し、差別の発生を防止しなければならない。また、従業員に対して多くの広報活動を行い、平等で友好的な仕事環境を提供し、障害者が集団の中にいる際の雰囲気に注意する。ろうあ者のいる企業では、従業員に基本的な手話を勉強させ、ろうあ者との交流がスムーズに行くよう取り計らうこともできる。
8. 障害者連合会就業センターが障害者のために提供するサービス及び支援
障害者連合会が障害者に対して提供する就業サービス及び支援には、役職推薦、職業指導、オリエンテーション、職場内教育(OJT)、障害者大学生就業補助金、オンライン公募、就職説明会等がある。
失業又は無職障害者が障害者連合会の同意する技能訓練に参加した場合、初級訓練合格者には訓練費を免除し、中・高級合格者には80パーセントの補助金を、在職障害者が所属する企業の必要に従って職業技能訓練に参加した場合には、初級訓練合格者に80パーセント、中・高級合格者に70パーセントの補助金を、それぞれ給付している。また、新卒大学生の障害者を採用する場合には、6か月の訓練補助金を給付している。目下のところ、障害者連合会は積極的に企業と協力し、障害者の職業実習受入地を拡大させ、申し込み受付による訓練を展開、企業の提出した職務要求と照らし合わせて、的を絞った障害者技能訓練を実施している。加えて、労働保障ネットとネットワークを形成している障害者専用公募ウェブサイトを開設しているため、企業が障害者を募集・雇用するのにも便利になっている。
9. 企業が障害者を採用するときの流れ
企業が障害者連合会を通じて障害者を採用する場合の一般的な流れは、次のとおりである。
障害者連合会が各区・県に設置している障害者労働 所と連絡を取り、職務の需要に基づいてサービス所から推薦支援を受ける。採用範囲が比較的広い場合には、直接に市の障害者労働サービスセンターと連絡を取り、具体的な職務上の要求を提示し、センターが統一して適した障害者のマッチングを行う。暫時、適任者が見つからず、欠員が比較的多い場合には、センターが企業の需要に合わせて障害者に対し訓練を実施し、企業の需要に見合った人材を育成する。
この過程において最も重要なことは、企業はできる限り詳細に、障害者連合会に対して職務上の要求を伝えることである。
10.障害者が仕事環境に溶け込むために企業がすべき支援及び障害者の日常業務においての注意事項
企業は、前述したように、障害者に平等で良好な仕事環境を提供し、障害者が差別されないようする以外に、同一業務でありながら報酬額に差を設け、又は低賃金で障害者を採用することは回避しなければならない事項である。
このほかに、障害者連合会によると、以前の福利企業認定は障害者従業員が40パーセント以上を占める企業であったが、現在は25パーセントに低下していることから(財税[2007]92号文書)、この15パーセントの従業員についても再就業手配の対象となる可能性があるとのことである。企業の雇用に対しては、障害者連合会は、適宜経費を提供してバリアフリー設備の改造等をすることができる。
今後の展望について障害者連合会は、上海における現在の障害者就業保障金比率は1.6パーセント(全国1.5パーセント)であるが、西側先進諸国では往々にして、障害者就業保証金の比率と障害者が総人口に占める比率とを連結させている(現在、上海の障害者が全市総人口に占める比率は5.29パーセント)ことを挙げていた。
まとめ
障害者連合会は、企業とより多く交流し、連絡を取り合えることを期待しており、企業のニーズに沿った適切な支援と訓練を提供している。企業側としても、障害者連合会を活用し、障害者に対する具体的な職務上の要求を提示することによって、障害者が自らに最適な就業ポストを獲得することを支援することができる。我々も、障害者と企業との間に、健全で、いかなる壁もない交流ルートを築くべく積極的に障害者の就業を促進していき、これが障害者の就業問題解決の一助となることを願っている。