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~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第59回 海外拠点に“高い目標を期待する”ときは、「ガッツ」ではなく「公平」に!

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2013年04月25日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳

 人生でも仕事でも高い目標を描き、それを達成するために努力することは大切なことです。会社組織では経営層は達成すべき目標を高く設定し、社員を動機づけしなければいけません。しかし、特に海外拠点では、目標をブレークダウンする際に「公平」というキーワードを忘れてはいけないのです。

 日本企業の海外拠点、特に、中国など経済成長の高い新興国の営業拠点で、現地社員から期初に次のような声をよく聞きます。
「こんな目標は高すぎます!」
「これが目標なら、最初からC評価以下が決まっています・・・」
「モチベーションを維持できませんし、やってられません・・・」
 
   このような彼らの声の裏側には日本企業特有のマネジメント特性が隠れているのです。ひと言でいうと、多くの日本企業での目標管理が予算管理から分離して適切に連動していないことです。通常日本では、予算を達成するために、目標管理上の「目標」に「ガッツ」が加わってしまいます。そのため、目標設定シートに記述される内容は、「目標」ではなく「ガッツ」に様変わりし、達成水準が自ずと「上振れ」してしまいます。当然のことながら、結果が未達になることが多くあります。しかし、目標は未達でも、ほとんどの社員は平均的なB評価になり、若干、B評価以下の社員もいれば、B評価以上の社員もいるという不自然な評価結果になることが多いです。
日本の組織では、できたね!次はさらに頑張ろう!と社員を鼓舞するよりも、まだできていない!だからもっと頑張れ!という具合に、常に目標を引き上げ続け、ホッと一息つかせず根性を掻き立て続けるような仕掛けの方がまだまだ一般的なようです。

 ここでもう一度、海外拠点に目を移してみましょう。日本本社の業績が伸び悩む中、特に新興国の拠点に対して、本社経営層は期待を膨らませます。本社でのマイナスを海外のプラスで補いたくなり、成長性の高い拠点に「過度な期待」を要求してしまいがちです。一方で、海外拠点のトップはサラリーマンですから、本社の役員や事業部長からの期待になかなか逆らえず、また、対等な議論も十分できず、日本側からの「過度な期待」を引き受けてしまうことが多くなります。そして、この「過度な期待」が多くの場合、現地拠点の「目標」になり、そして、「予算」になってしまいます。皮肉なことに、海外拠点では現地社員に適用される目標管理は予算管理と連動してしまうことが多いのです。

 そもそも「過度な期待」であることから、どんなに頑張っても、結果が未達になってしまうことがあります。この場合、海外拠点の中で「不公平」なことが起きてしまうのです。拠点のトップや駐在員の日本人は、「ガッツ」を持ち続けたことが本社から斟酌され、(過度な期待)目標が未達でも平均的にB評価、あるいは、それ以上になることすらあります。しかし、原則、現地人材はC評価以下になってしまうのです。その時々の財務状況次第では、C評価になった特定の社員をなんらかの理由をつけて救済しB-やBに引き上げることもありますが、この対応が一般化すると、目標設定の意味が薄れ、目標管理自体が機能不全に陥ってしまうことになります。
 
 海外では、自分の成果に相応しい報酬を求め、市場価値を高めたいと思っている優秀な現地人材は、このような「不公平」を我慢することは少なく、多くは退職してしまいます。一方で、向上心が低く、どちらかというと雇用の安定を優先する社員が滞留してしまい、現地社員の間には緊張感が低くなってゆきます。その結果、彼らに対して日本人は、「高い目標を達成する意欲も向上心もない!」とストレスを高め、本来目指していることに照らして、パラドックスに陥ることになってしまうのです。

 海外拠点で「適切」で「公平」な目標管理が実行されないと、組織は次第にこのような憂慮すべき実態に導かれてしまうのです。

 仮に、中国の拠点で営業目標が未達になってしまった場合、その大きな原因を中国経済の最近の失速に理屈づけることは必ずしも正しいとは言えません。実際のところは、中国人社員に働く意欲と向上心を失わせてしまっている事実や人事マネジメント上の失策があることをきちんと視野に入れ、改善を実行していかなければいけないと思います。
 

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