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~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第58回 日本人は「感謝」の言葉、「褒める」言葉を表現することが苦手!?

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2013年03月21日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳

 結婚式のスピーチで「夫婦円満の秘訣は、お互いが“閾値”を上げないことです!」という新郎新婦へ贈る大変意味深い言葉があります。

 “閾値(イキチ)”という言葉はあまり聞きなれない言葉ですが、その意味は「生体が反応を示す最小の刺激量」ということです。具体的にイメージしやすいのは、自分の手の甲をつねったときの現象です。最初、「痛い」と感じる「つねる強さ」があります。何度か手の甲の同じ場所をつねると、「痛い」と感じる「強さ」に変化が起きます。最初につねった強さが痛いと感じなくなってしまうのです。痛いと感じるにはさらに強くつねらないといけないのです。この現象を「閾値」が上がるといいます。

  夫婦の関係では、新婚のとき最初、お互いに「ありがたい!」と感じる「レベル」が誰にでもあるはずです。しかし、時間の経過とともに「ありがたい」と感じる「レベル」に変化が起きます。新婚のとき相手にしてもらったことがもはや「ありがたい」と感じず、当たり前の「レベル」に感じてしまうのです。「閾値」が上がるとはこういうことですが、意識せずに上がってしまう性質があります。「閾値」つまり「当たり前のレベル」を上げてしまうと、お互いの間で「ありがたい」と感じることが徐々に少なくなっていき、感謝の言葉も少なくなっていくので、夫婦円満の秘訣は「閾値」を上げないことになるわけです。

 国内外問わず日本企業の職場では、上司と部下の関係において「閾値」が上がる現象がよく起きます。個人差はありますが、部下が頑張っていい仕事をした場合、多くの上司は「頑張ったね!」「いい仕事したね!」と一時的には褒めます。しかし、部下が同じようなよい仕事を続けても、上司は前回と同じように褒める言葉をかけません。その理由は「前回できたことは今回できて当然」と考えるからです。現場の「改善」活動で商品やサービスの品質を高めてきた日本企業では、この“国内仕様”の思考・行動文化が黙示的規範として定着しているのです。

 一方で、グローバル化、つまり、外国人と「誤解」や「軋轢」少なく意思疎通できる状態を達成するためには、日本人は“世界仕様”の行動を身につけていかなければいけません。「助けられた」「ありがたい」と感じたら、「ありがとう!」「Thank you!」、「いいな」「よくやったな」と感じたら、「いい仕事だね!」「Good Job」と表現することが大切です。「○○を感謝している」「○○をとてもよいと感じた」という具合に、その対象を具体的に表現すると、もっとお互いの理解を深めることに繋がります。多文化社会では「お互いわかり合えなくて当然」がコミュニケーションの前提ですから、お互いが理解できるようにできるだけ具体的に表現し合うことが行動原則になります。

 さらに、応用編として、日本人が「少しの変化」を認知する表現習慣を身に着けていくと、外国人との対話を深めることができるだけでなく、人や組織の成長も加速させることができます。

 商品やサービスの「改善」と違って、通常、人の行動や仕事のアウトプットは、少しの改善だとなかなか認知されません。少しの変化を含めて前回と同じレベルと認知されてしまう傾向があります。そうすると、部下は、褒めてもらうためには大きな変化が条件になると感じ、徐々に息切れし、同時に、上司も感謝や褒める言葉と表現を失っていくことになります。

 もし前回と同じレベルの仕事だとしても、よいレベルを続けることは継続的な努力が必要で大変なことです。ですから、前回と同じレベルでも、「今回も○○の件はいい仕事だったね!いい仕事を続けることは素晴らしいことだよ」という具合に、「よい」と感じることを、まず、具体的に認知して褒めることが大切です。さらに、「次回、もう少しうまくできることがあるとしたら何だと思う?」というように、次に向けて相手のポジティブな考えを引き出すことが大切なのです。そのためには、「オープン質問(=「はい」「いいえ」で答えることができない質問)」をすると効果的です。

 「便りがないのはよい知らせ」や「無言のうなずき」などの考え方や行動は、外国人にはなかなか理解してもらえません。「ありがたい」「よい」と感じることを具体的に言葉で表現することが多文化環境の中では必要なのです。そのような言葉は心の潤滑油にもなり、不必要に相手に不安を与えることを防ぐこともできます。外国人と信頼関係を作り感度を合わせて仕事をするための必須課題といえるでしょう。

 

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