~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第57回 「企画部」は海外組織では機能しない!?
株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
多くの日本企業では、経営企画部や事業企画部のように「企画」の名称がつく組織があり、通常、社内の中枢組織としてうまく機能しています。
終身雇用的慣行のもとでは、社員の働く大義名分は「会社のため」です。したがって、1人ひとりの社員が協力し合って仕事をすることは当然で、企画部から理にかなった要請や依頼があれば協力を惜しみません。
また、企画部で働く社員は 会社全体や事業全体のビジョンや戦略を実現するために、組織横断的に行動することが求められ、他部門の社員と連携して成果を上げることが使命になります。そのため、社内の仕事や人脈にある程度詳しく、調整能力や説得力が高い人材、つまり、社内で将来を期待されている人材が企画部に配置されることが多いです。
さらに、他部門の社員は、定年まで一緒に働くという前提のもと、企画部の“できる人材”がいつか自分の上司になるかもしれないと推測し、企画部からの多少の無理難題にもなんとか対応することが多いのが実態です。
では、海外拠点の組織で「企画部」を作った場合、日本と同じように機能するのでしょうか?
案外、日本企業の海外拠点では日本での組織設計がコピー&ペーストされ、「企画」の名称がつく組織が散見されます。そして、この組織には本社から派遣される人材の中でも“できる”人材が配置されることが多いです。ところが、この“できる”人材の多くが現地で大変苦労しているのです。「組織横断的に行動しようとしても誰も言うことを聞いてくれない」「各部に説明するとき、毎回反発されるので、いつもドキドキする」といった具合にかなりストレスを溜めてしまいます。一方、相談を受けた社長や組織の長の日本人が「日本と海外での人の行動原理の違い」を理解していない場合、「各部を全社的な視点で横断的に動かすのが企画部の仕事!君の仕事だ!各部が動かないのは君の努力不足だ。頑張れ!」と日本の感覚で一蹴し、“できる”人材を困らせてしまうのです。
海外には終身雇用的慣行はありません。労働契約を結んで(就社ではなく)就職している現地人材には「会社のため」という大義名分や基本発想はありません。一人ひとりが協力し合うよりも、上司との関係で仕事をすることが行動原則になります。
そもそも、他部門の現地人材は企画部という組織に違和感を抱きます。各部門内でも企画(=Planning)をする役割があるのに、新設された企画部はそのPlanningの役割を奪い、各部は実行部隊になるのか?企画部のPlanningと各部のPlanningは重複するのか、それとも異質なのか?
といった疑義です。
さらに、実際の実務の中で各部門が最も大きな問題と考えるのは、企画部からの様々な要請、指示です。企画部と「同列」の各部の現地人材は、「企画部長や企画部スタッフは自分の上司ではない!」「上司でない同列の人からいちいち指示されたくない!」といった気持になります。結果的に、企画部がリードする仕事に対しては「組織的観点」から否定的、批判的になるのです。企画部長やスタッフがよほどの人格者か、各部の部長やスタッフと特別な深い個人的関係をもっていなければ、企画部からの要請や指示に対して各部の現地人材が協力的な行動をとることは考えにくいことなのです。
海外拠点では原則、日本的感覚で企画部を作らず、社長や組織の長は、「企画」は自分の役割の一部だと認識し、自ら各部長に直接仕事を要請し指示することが望ましいのです。このような行動をとることこそが、社長=経営者として大きく成長するためのチャレンジともいえます。
他方、どうしても企画部を作りたい場合は、企画部を機能させるために次の2つのどちらかを選択し、社長自ら社内に周知させることが大切です。一つ目は、社長の役割のうち企画部に任せる経営課題を特定し、それについての日常的な指示命令権を企画部に委譲することです。二つ目は、企画部に任せる経営課題を特定することが難しい場合、企画部から各部への日常的な要請や指示は全て社長の代行である、つまり、各部長にとって、上司からの要請、指示であると位置づけることです。このどちらかが各部に正しく理解されれば、企画部に配属される日本人の“できる”人材は仕事がやりやすくなり、本来の実力を発揮しやすくなるのです。