~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第56回 相対評価 V.S. 絶対評価
株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
第12回でお話しましたとおり、日本企業が導入してきた成果主義型人事制度の多くは「30%感覚」に基づく成果主義“風味”です。具体的には、上司と合意した目標の達成度などは評価結果に約30%しか影響せず、「上司の好き嫌い」「上司の主観」といった“見えざる要素”が残りの70%影響しているという感覚です。
この「30%感覚」は各層の上司と部下の間で連鎖的に共有され、当たり前のことと認識されています。当然の結果として、上司は部下の「成果」を評価する「判断基準」や「具体的根拠」を明確に説明することが難しくなります。一方で、部下は自分の評価結果に疑問を感じても上司に説明を求めなくなります。その大きな理由は、「どうせ説明できないのだから上司をあえて困らせるのはよくない」「他の皆が説明を求めないから」「説明を求めると変な奴と思われるかもしれないから」といったことです。つまり、日本人の上司、部下の間では、評価結果や評価方法について「正面から向き合った」対話が起きにくくなってしまうのです。
しかし、この状況を放置すると、評価について上司と部下がお見合い状態になり、よそよそしい関係を続け、士気の低下につながりかねません。そこで、このリスクを解決するために、評価結果を裏付ける「もっともらしい」方法が必要になります。それが、相対評価なのです。合意した事項が30%、“見えざる要素”が70%影響した各社員の評価結果を「正規分布」させ、全体の中で評価結果を再調整する方法です。
S・A・B・C・Dという5段階の相対評価では、上司は部下の評価をAとしたが、正規分布させるとBになるといったことが起きえます。上司は部下に「俺はAと評価したが相対評価の結果Bになってしまった。気を悪くしないで頑張ってくれ・・・」という力のないコメントをせざるをえなくなります。部下は「相対評価だから仕方ないか・・・」「まあ、上司が良い評価をしてくれているからいいか・・・」と自分に言い聞かせ気持ちを切り替えることになります。
このような論理性や納得性の低い状態をお互いに当たり前のことと是認し、根本的な問題解決を控える本質的な原因は、「終身雇用的慣行による安心感」をお互いが優先してしまっていることだと考えられます。もし雇用の保障が前提になければ、このような現状を是認することなく、お互い緊張感をもって間違いなく現状打破に取り組むことになると思います。
つまり、終身雇用的慣行のもとでの「30%感覚=評価基準が明確でないオペレーション」では、「もっともらしさを装う手段」として「相対評価」が必要になるのです。
残念なことに、日本企業の海外拠点の多くでは、「30%感覚」の日本の評価制度がコピー&ペーストされ、さらに、日本人駐在員が何も疑うことなく「30%感覚」を前提とした「相対評価」を現地人材に適用し、結果、たくさんの軋轢を生んでいます。
海外では、上司と確認し合意した内容(目標や行動評価指標など)の結果が評価に95%影響することが一般的です。“見えざる要素”は上司の「裁量」の範囲として5%程度にとどめ、評価の説明性を上げることが鉄則です。この「95%感覚」のもとでこそ、上司は判断基準を明確に説明することが可能になるのです。
つまり、終身雇用的慣行がない海外の「95%感覚=評価基準が明確なオペレーション」では、「上司と部下が正面から向き合う手段」としての「絶対評価」が機能するのです。
絶対評価を人事オペレーションで適切に機能させるためには、「説明可能な」評価基準が鍵になります。特に海外拠点で働く日本人駐在員は、試行錯誤を繰り返しながらでも説明力を高めるための「思考力」を鍛えることにチャレンジする必要があると思います。多少の論理の粗さには目をつぶり、できるだけ論理的に考え率直にわかりやすく表現することが大切です。
絶対評価では、上司の評価はBだが、5人の部下のうち4人がAで1人がBというような評価結果は想定内のことです。この結果は明らかに「不自然」です。この結果から「何がおかしかったのか?」と考え、各社員がLESSONを得るプロセスこそが重要なのです。相対評価に依存すると思考停止を招きかねません。海外現場で日本人のグローバル化を前進させるためには、絶対評価へのチャレンジは避けて通れない道だと思います。