~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第54回 中国人は“自発的に”報告しない!?
株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
中国で働く日本人駐在員の間では、日本人と違って中国人は“自発的に”上司に報告することが少ないという認識があります。課長クラスでもそうですが、現場のスタッフや作業員になればなるほどその傾向が強まると感じています。特に、「問題が大きくなってはじめて報告してくる」中国人の行動に日本人駐在員はストレスを溜めてしまいます。
このストレスの背景には「日本人なら困ったらすぐに“自発的に”相談や報告をするのに・・・」という感じ方があるのです。
日本の大組織で働く日本人は終身雇用的慣行ももとで仕事をしていますので、行動の大義名分は「会社のため」になります。そして、「会社のため」という共通の考え方のもとでお互いに助け合う、声を掛け合う、相談しあうという行動が自ずと一般化しています。
さらに、同質性が高いためコミュニケーション上「お互い理解しあえて当然」という考え方が大前提になります。そうすると、この大前提のもと、相手の表情、仕草、言葉使いなどを含めお互いに求めていることを推察し合い、お互いに気遣いしながら行動することが常識的になるのです。
このようなことから、“たまたま”問題が大きくなる前に相談や報告があり、問題を未然に防ぐことができているケースが多いのが日本での実態に則した「感覚」だといえます。
中国で働く日本人駐在員はこの「感覚」を中国人社員に求めてしまいストレスを溜めているようです。日本人と同じように、問題が大きくなる前に“自発的に”相談し報告してほしい、という気持ちはよくわかりますが、実際にそのような行動を中国人に習慣化させることは大変難しいです。
中国人のみならず多くの諸外国の人の行動習慣は、終身雇用的慣行や高い同質性もさることながら、性善説がベースとなった日本人の行動習慣とは大きく異なります。相手が日本人の場合と同じように、中国人の「善意」や「ボランタリー」に基づく行動に「依存」することは適切ではありません。しかも、経験値が不十分な中国人の行動“だけ”に依存することは大変リスクが高いと思います。
問題を大きくせず未然に防ぐということが目的ならば、相手の中国人に期待するだけでなく、日本人管理者がとるべき適切な行動もある、と考えるのが合目的であってフェアーな考え方です。多くの場合、次の2つの行動が日本人管理者側に欠けていることが大きな問題なのです。
まず、問題を未然に防ぐための「管理フロー」や「管理手順」を明確することです。
日本の職場での手順書の内容には「グレー」な部分が多いのが一般的です。しかし、社員一人一人が「会社のため」に「善意」で行動し、結果的に「グレー」な部分を補って、問題を未然に防ぐことができていることが多いのです。
中国で、このような「管理ツール」の「不十分さ」を中国人の“自発的な”行動で補おうとしても、中国人に日本人と同じような「善意」に基づく行動を期待することがそもそも難しいため機能しないのです。
日本人管理者は問題が起きると、その問題を題材に「反省会」「勉強会」を実施することが多いです。このこと自体は大変良いのですが、その場で「では、これからは○○しましょう」という掛け声や口頭やメールでの確認で終わってしまっていることが問題なのです。折角、出た結論はその時点での「管理フロー」や「管理手順」の改定に繋げ、「管理ツールの精度」「ルールの正確性」を上げ、「グレー」な部分を最小化するための努力をしなければいけないのです。
次に、中国人との対話の時間の確保です。
多くの場合、日本人管理者は自ら中国人と対話する時間は極力少なくし、一方で中国人からの報告などを待つ傾向が強いです。日本人管理者の中には、日本語ができる中国人部下とはよく話すが、そうでない中国人部下とはほとんど話さなくなる人も少なからずいます。まずは、自分の直属の中国人部下とは直接報告を受ける面談の時間を毎月最低1時間設定し、その報告の時間を活用して連絡や相談を促す「質問」をしながら、相互理解を深めていくことが大切なのです。日ごろのフェアーな対話不足が結果的に大きな問題を引き起こしているという側面も十分あると考えるのが妥当だと思います。