キャスト中国ビジネス

~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第35回 「異なる意見」をマネジメントする方法

限定コンテンツ
2012年09月18日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
 

「異なる意見を受け入れる」とは「相手に折れる」こと?

 外国人同士と比べて日本人同士では、日常的に異なる意見が“表だって”対立する頻度がかなり低いため、稀に対立すると、双方が第3者から「異なる意見を受け入れなさい!」というなんとも“不可解な”アドバイスをもらうことになります。

 自分なりにしっかり考えをまとめて議論に参加した時、そこで部下や同僚から異なる意見・考え・アイデアを提示され理解を求められると、国籍を問わず人はなかなか冷静に対応できないものです。特に日本人はこのような「場面」の経験が少ないため、無意識に湧いてしまうネガティブな拒否感情を冷静に処理する方法に疎くなってしまっていると考えられます。

 その結果、「意見」が対立しているだけなのに、人と人の「感情の対立」や「感情のもつれ」を避けて、どちらかが“状況”を見て「折れる」行動をとる傾向が高くなります。パワーバランスとしては、部下が「折れる」、部下に「折れさせる」ことが多くなるのが実態でしょう。

 また、形は変化しつつあるものの終身雇用が一般的な慣行となっている日本の企業社会では、好むと好まざるに関わらず、人と人の「長い付き合い」が前提となります。この前提が「どちらかが折れて人間関係を維持する」行動習慣を心理的に後押ししているとも十分考えられるのです。


 一方で海外では、そもそも「各個人の意見は異なることが当たり前」であり、異なる意見が対立することは日常茶飯事です。そのため、頑固で感情的な外国人を除けば、「異なる意見を受け入れなさい!」というアドバイスをもらうことは少ないでしょう。意見が対立すれば、お互いに異なる意見を感情的に拒否するのではなく、まず、双方の意見を冷静に正しく理解し合うことが鉄則です。その結果、どちらかの意見に納得できるかもしれませんし、お互いがフェアーと感じ納得できる新しい意見を一緒に創ることができるかもしれないのです。

 海外には終身雇用をベースとした「長い付き合い」という前提や、そこから派生する「気遣い」による「折れる」あるいは「我慢して飲み込む」というような行動習慣はほとんどありません。

 従って、日本企業の海外拠点で日本人上司の意見が外国人部下の意見と対立する時、日本で期待できるパワーバランスが機能する確率は自ずと低くなってしまいます。その結果、日本人上司はストレスを溜めてイライラするか、敢えて部下の意見を聞こうとせず業務命令のみを繰り返し、外国人部下との人間関係が徐々に疎遠になってしまうことが多く見られます。


では、意見が対立する場面経験が少ない日本人は、どのような方法で異なる意見をマネジメントすればよいのでしょうか?

「異なる意見を最後まで聞く」は本質的な解決策ではない!

 異なる意見を感情的に拒否しがちな人は「異なる意見を最後まで聞きなさい!」というアドバイスを受けたことがあると思います。アドバイスに従い、辛抱して頑張った人も多くいると思いますが、その結果、お互いの意見を冷静に正しく理解し合えたと実感した人は少ないはずです。

 海外拠点で外国人部下の話や報告を聞いている時、その内容が「期待に反している」「自分の考えに合っていない」「間違っている」と感じた瞬間、首を横に振りながら、「違うだろう!」「こうでしょ!」と言って相手の話を途中で遮る日本人上司は実際のところ少なくありません。

 そこで、先のアドバイスを受け、相手の話を最後まで我慢して聞いた経験がある人は案外多いと思います。しかし、相手の話を聞いている途中で「そうじゃない!」と感じた瞬間以降は、相手の言葉は「音」として聞こえてはいるのですが、同時に、「音」が鳴り止んだらどういう表現で説き伏せようかと頭の中で考え始めていることが多いのです。つまり、「音」を聞きながら、伝える内容を考える脳がフル回転し、相手の話を理解する脳が停止している状態になっているのです。表情は、ポーカーフェース、強張った表情、イライラした表情、微笑みを創った表情など人により様々です。興味深いのは、相手の言葉の「音」を聞き終わると、ほとんどの人が「あなたの言っていることはわかりますが・・・」「あなたの言わんとしていることはわからないわけではありませんが・・・」、あるいは、話の内容とは関係なく「あなたの“気持ち”はわかりますが・・・」というような決まり文句を“緩衝材”として使い、その後は、相手の話を全否定し、「でも、こうでしょ!」と言っているのです。理解する脳が途中で停止しているので、相手の話を理解できているはずはありません。つまり、「異なる意見を最後まで聞く」だけでは、理解を伴うことが少ないのが現実なのです。

「異なる意見を正しく理解する」ための効果的な方法

 結論は、相手の話を聞き終わってから、相手の異なる意見を「整理して復唱する」ことです。その際には、できるだけ相手が使った言葉を使うことと、自分の勝手解釈を加えないことがポイントです。相手が使っている「言葉の意味」が理解できない場合や、相手の意見の「理由」がよく理解できない場合は、相手に説明を求め、それを理解してから、整理して復唱することが鉄則です。

 具体的には、「貴方の意見は・・・・・なのですね?」「その理由は・・・・・なのですね?」「この理解で正しいですか?」と聞いて確認する行動を身につけることが重要なのです。

 意見が対立した時、この確認する行動が自分の「アウトプット」だと決めれば、異なる意見を聞きながら感情的になっていられませんし、当然のことながら、最後まで話を聞かなくてはいけなくなります。相手の意見を理解していなければ、それを「復唱」することは不可能なのです。

 この行動をとった後、相手が「その理解で正しいです」と言えば、正しく理解できたことになりますし、相手も、今までと違って自分の意見を正しく理解してもらえて心地よい気持ちになります。まず、ここの状態に到達することが大切なのです。さもなければ、その後のフェアーな議論は通常ありえないのです。

 一方で、「ちょっと違います」という反応が返ってきた場合は、理解が間違っていた、あるいは、相手の表現が適切でなかったかのどちらかでしょう。ただ、残念ですが、この場合は、「そうですか・・・では、ちょっと違う部分についてもう一度話してくれますか?」と聞き直し、話してもらった後にもう一度、整理して復唱する必要があります。

 全てのケースとまでは言いませんが、このような行動をできるだけ回数多く繰り返す努力がとても大切です。この努力の過程で、そもそも意見の対立に不慣れな日本人上司は異なる意見を正しく理解するための行動を身につけることができるようになり、同時に、外国人部下もより適切な言葉でわかりやすく表現する行動を身につけることができるようになっていきます。さらに、コミュニケーションのキャッチボールの中で、日本人上司が相手と異なる意見を伝える際に、解釈の幅が狭い(=低コンテクストの)表現ができるようにもなり、副次的な効果は計り知れません。

 

最新関連コンテンツ