~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第51回 「成果主義“風味”」
株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
日本の大企業の多くは、「成果主義」という枕詞がつく人事制度のもとで「目標管理」を行っています。その中で、部下は上司との面談を通して目標を設定することになっています。このプロセスを経験している多くの管理職と一般社員の日本人へいくつかの質問をすると大変興味深い回答が返ってくるのです。
『目標設定シートで上司と合意した目標の達成度合いで自分の評価は何%くらい決まっていると思いますか?』
「30%くらいだと思います」※個人差はありますが平均すると約30%です。
『では残りの70%は何で決まっていると思いますか?』
「・・・好き嫌い?」「・・・上司(たち)の主観?」「・・・態度?」「・・・曖昧な表現の考課基準?」
「30%や70%に関係なく評価結果は初めから決まっているのでは・・・?」
『自分の評価に30%しか影響していないと感じる目標設定シートを毎年どうして“まじめ”に書いているのですか?笑』
「会社で決まったことですから・・・」「みんなが書いているので・・・」
『自分の評価結果に不満を感じたことは過去にありましたか?』
「はい・・・」
『そのようなとき、上司に説明を求めましたか?』
「いいえ・・・」
『どうして上司に聞かないのですか?』
「聞くと自己主張が強い変な奴だと思われるからです・・・」「俺も我慢してきたんだからお前も我慢しろ!と言われそうだからです・・・(大笑)」
終身雇用的慣行がベースにある多くの日本企業では、「雇用の保障(今や完全とはいえませんが・・・)」の対価として「評価は個人の手の届かないところで会社が決めるもの」「不満は表現せず我慢するもの」というのが社員の一般的な受け止め方であり常識的な感覚になるのです。一方で上司は、評価結果を明確に表現すると、部下との関係や組織内の人間関係がギスギスしてしまうことになるので、出来・不出来が明確になるような「基準」を明確に設定することを避ける行動を無意識のうちに習慣化させることになるのです。この現象は、終身雇用的慣行をベースとした「平和」を尊ぶマネジメントスタイルといえます。
しかし、このスタイルは海外では機能しません。上司と合意した「目標」の達成度、会社で設定されている「(現場感にフィットした)行動指標」の発揮度合など、相互に確認が可能な「評価基準」に基づいてほぼ100%評価されることを現地社員は実際に強く望みます。これは終身雇用的慣行がない海外の現地人材がもつ常識的な感覚です。上司の多少の「裁量」を考慮したとしても90%以上という感覚でしょうから、日本人にとっての30%とは感覚的に大きな隔たりがあります。上司と確認した「評価基準」が自分の評価に30%しか影響しないのであれば、評価基準を上司と確認する(例:目標設定シートで目標を設定し合意する)行動を現地社員が誰もとらなくなってもおかしくありません。
海外で働く日本人駐在員は、日本の「30%感覚」を海外に持ち込み、この「日本的感覚」で現地人を評価していることが多いです。当然、現地社員は評価結果に納得できないことが多いので、日本人と異なり、自分の日本人上司に説明を求めます。しかし、日本人上司は「会社が決めたことに疑問や不満を表明することは不適切だ、けしからん!」「評価結果を黙って受け止め自分に何が足りなかったのか?を自ら考えることが先決!」と本能的に感じてしまうことが多いのです。
多くの日本企業が導入している「成果主義の人事制度」は、達成する成果を明確にしてその達成度を評価するというごく自然であたりまえの「本来の成果主義」ではなく、実態としては、終身雇用的慣行に適応させた「成果主義“風味”」なのです。このような「違い」の事実認識にもとづき、日本人が海外の現地人材に対して適切な行動をとることができるようになるための「学びと気づきの機会」を創ることが、日本人のグローバル化教育における今後の大きな課題だと思います。