現地法人リストラの実情と「労働契約法」の改正
キャストコンサルティング(上海)有限公司
総経理 前川晃廣
(中小企業診断士/証券アナリスト)
中国の景気減速のみならず競争の激化や各種経費の高騰により、中国事業の「再編」を検討している日系現地法人は、既に過半となりつつあります。残業を減らすことで従業員数の「自主退職による自然減」をスムーズに遂行できればいいのですが、再就職の当てのない従業員には、経済補償金の権利を放棄してまで自主退職に踏み切る勇気もなく、結局はモチベーションの上がらないまま現法で働き続けることでしょう。
中国には「労働契約法」という法律があり、従業員のリストラ、即ち「会社都合による解雇」に関しては、その第41条およびその前後に細かい規定が定められています。規定を要約すると、①「リストラの30日前までに従業員の意見を聴取し」、②「労働局に報告して」、③「勤続N年の従業員にNヶ月分の平均月収を経済補償金として支払えば」、解雇してもよい、とあります。(更に細かい規定もありますが、ココでは捨象します。)
しかし現場では、以下のような問題が起こっています。①リストラを告知した後の30日間も引続きちゃんと働いてくれるのか? ストライキやサボタージュは起きないのか? ②規定では「労働局への報告」となっているが、労働局の判断でストップをかけられることはないのか? ③法定とおりの補償金だけで、従業員がスンナリ納得するのか?
そう考えると現行の「労働契約法」は、経営側にとっては非常に使いづらい法律であることが分かります。なぜこのような法律が存在しているかは、法律制定時の経済的背景を考えれば分かります。中国の景気も好調だった2008年1月施行のこの法律は、実は同年9月のリーマン・ショックよりも前に公布され施行されました。即ち、順調な経済成長を背景に「労働者の権益を守る法律」=「経営側には厳しい法律」として世に出た法律だったのです。
2016年3月の全国人民代表大会(日本の国会に相当)では、この「労働契約法」が中国の多くの企業の経営難の原因の一つになっている点が論議されました。「ゾンビ企業」の市場からの退出を叫ぶのはカンタンですが、なぜ「ゾンビ企業」が増えてしまったのかも併せて考える必要があります。人件費の高騰は、日系現法の経営を圧迫するばかりでなく、東南アジアをはじめとする他国への労働の移転をもたらし、引いては中国経済の減退の遠因にもなるのです。そのバランスを考えると、今回の全人代で「労働契約法の改正」が議論され始めたのは当然の帰結であり、成長が鈍化しても繁栄と安定を確保する「新常態」実現のための改革であると言えるでしょう。
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