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さて、2010 年度には現状の賃金を不満として各地で労働争議が多発しています。
争議権が82 年憲法(現在有効な憲法)上明文で容認されていない中国において、経済発展を重視する1980 年代、1990 年代には労働争議を違法視する傾向が認められたのに対して、2010 年度における労働争議に対して政府はこれを擁護する立場をとっているように見えます。この新たな立場の結果、労働争議は過去発生事例と比較し、①2 週間を超えるなど長期化傾向を示し、②生産経営に大きなマイナスの影響を与えるなど程度が深刻化する傾向を示し、③使用者が不合理と評価する余地もある大規模譲歩を強いられる傾向を示すこととなっています。
政府の労働争議に対する哲学的転向の原因はどこにあるのでしょうか。
最も大きな原因は2009 年のGDP(4.9 兆米ドル、個人GDP3600 米ドル)が2000 年のGDP(1 兆808 億米ドル、個人GDP853 米ドル)と比較して4 倍以上となっているにもかかわらず、その経済力の果実が労働者に対する賃金分配に適切に反映されておらず、胡錦濤政権が標榜する和諧社会(調和のとれた社会)建設に逆行する格差社会の形成の原因となっているとの認識があるでしょう。これを長期間放置すれば、社会の安定に反する結果が生じる懸念があります。そこで、上記①②③の特徴を有する労働争議を擁護することにより、賃金の上昇が促進されることを期待しているように思われます。実際にも政府統制が働くメディアが労働者保護を基調とする論調に傾斜した情報発信を継続していることはその端的な証左であると見ることができそうです。
では、賃金はどの程度まで上昇するのでしょうか。
現在、2011 年3 月に公表される第12 次5 ヵ年計画の草案が起草中ですが、そこでは当該計画の支配する5 ヵ年で労働者の賃金を2 倍にする(毎年の賃金上昇率を15%以上とする)政策が盛り込まれる予定と伝えられます。
これを可能ならしめるために、今年下半期から来年上半期にかけて公布されると噂される「中華人民共和国賃金法」は例えば「同工同酬(同一労働同一賃金)」の原則の一層の徹底を図り、同じ職位にある日本人と中国人の賃金に顕著な差異があるとすれば、当該差異の全てを一切否定することはないまでも、相当具体的で正当と評価される理由がなければ、不合理な差異として是正を求められることになるなどの結果が予測されるところです。もし当該予測が的を射たものであるならば、外商投資企業にかかる賃金上昇圧力はブルーカラーだけではなく、間接部門を支えるより高額な賃金を取得するホワイトカラーに一層顕著な形で現れることになり、中国ビジネスが大きな転換点を迎える契機となる可能性が高まります。
また、政府は政府の誘導する賃金上昇の方向性に抗う外商投資企業や民営企業が登場することを牽制するために、2011 年度以降、基層労働組合(企業内労働組合)の組織を一層強く働きかけていくことでしょう。上級労働組合のコントロールを受ける共産党の末端機関でもある基層労働組合は上級労働組合とのコミュニケーションを通じて企業に賃金上昇圧力をかけていく働きをしていくことになるでしょう。このことは江沢民政権下における御用組合の時代が完全なる終焉を迎え、資本主義社会における先鋭な労使対立を前提とする労働組合とまではいかないまでも、共産党、政府のコントロール下で「調和のとれた」限度での労使対立を容認する新たな基層労働組合への移行を促進することでしょう。そのことの組合人事的側面への現れとして、企業の利益代表者である副総経理や人事部長、総務部長である中国人の組合主席を含む組合幹部への就任の禁止規定などの明文化が「中華人民共和国労働組合法」の改正などにより図られる可能性があると考えます。
労働争議そのものも2010 年度のもしかすると「実験的放任」の結果、相当程度の事例集積が進むと、2011 年度以降で中央法令による労働争議の規範化が図られることになるかもしれません。すなわち、82 年憲法の争議権に関する沈黙=労働争議は違法との立場から当該沈黙=労働争議を適法として容認できるとの立場に転向することを前提として、社会の安定の観点から、争議権の行使の手続き統制を図る可能性があると思われます。そもそも75 年憲法、78 年憲法が争議権を明文で容認していた事実からも争議権の容認はマルクス・レーニン社会主義及び毛沢東理論に反するものとはいえず、ただ鄧小平理論に基づく改革開放プロセスでの社会の安定化の必要から、82 年憲法で明文による権利化が忌避されたにすぎないという歴史的経緯に鑑みれば、争議権を認めることが却って社会の安定に資すると認められる中国社会の重要な変化が生じた現在、当該沈黙を争議権の排除の趣旨と理解せず、82 年憲法改正(第5 次改正)を経ずとも解釈を通じて争議権の容認の立場をとることは可能であるとの見解も十分成り立つところです。よって、上記可能性は現実的なものだと考えます。
争議権の法律による積極的容認が図られると、基層労働組合がその適法な行使に一層重要な機能を示す可能性が高まるでしょう。この文脈においても、政府が2011 年度以降、徹底した基層労働組合の組織促進を図る予想が正鵠を射たものであろうと思われるのです。
社会安定のための賃金の健全な分配政策とその履行を強制するための「中華人民共和国賃金法」の制定を一方の車輪として、また争議権の制度化、規範化とその履行の担い手としての「調和のとれた」限度内における労使対立型基層労働組合の組織化を他方の車輪として、2012 年、2013 年の政権交代までに残された胡錦濤政権における重要な課題として制度整備が図られ、次期政権においてその本格履行の時代を迎えることでしょう。
本セミナーは上述したところをより詳細に徹底的検討を加えることも目的とするものです。
お忙しい時期とは思いますが、万障お繰り合わせの上、是非ご参加くださいますよう、お願い申し上げます。
記
1.日時: 2010年9月27日(月) 13:30~16:30(13:00受付開始)
2.場所: 中銀大厦 4楼銀行家俱乐部 多功能厅
住所: 上海市浦東新区銀城中路200号 電話:021-3882-4500(代)
3.主催: 弁護士法人キャスト、キャストコンサルティング(上海)有限公司、
上海勤瑞律師事務所
4.協力: 三井住友銀行
5.参加費: 300元/人
※当日会場にて現金でのお支払いをお願いいたします。
6.定員: 100名(事前申込制、先着順)
7.言語: 日本語
8.講師: 弁護士法人キャスト 代表弁護士・税理士 村尾龍雄 (制度概説)
上海勤瑞律師事務所 律師 徐暁青 (中国法解釈)
■お申込方法:WEB専用画面より申込みをお願いいたします。
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