キャスト中国ビジネス

新型コロナウイルス肺炎をめぐる対応について

2020年01月24日

執筆者:弁護士法人キャスト       

 弁護士・中小企業診断士 金藤 力

 

新型コロナウイルス肺炎をめぐる対応について

 

一、 2020124日時点の状況

新型コロナウイルス肺炎の症例は、国家衛生健康委員会の124日の発表【】では、12324時の時点で、29の省(区、市)で累計830例、うち重症177例、死亡25例となっています。

国家衛生健康委員会は、2020120日付け公告2020年第1号【】により、新型コロナウイルス肺炎を《伝染病予防・治療法》にいう「乙類伝染病」に組み入れ、且つ「甲類伝染病」の予防・統制措置を講ずることとしました。また、《国境衛生検疫法》に定める検疫伝染病管理にも組み入れました。この「乙類伝染病」に分類のうえで甲類伝染病の予防及び統制措置を講ずるというのは、SARS(重症急性呼吸器症候群)などと同じ対応のしかたとなっています(《伝染病予防・治療法》4条第1項)。参考までに、「甲類伝染病」ペスト及びコレラを指し、「乙類」にはSARSやエイズなど、「丙類」にはインフルエンザや風疹などが分類されています(同法第3条)。

武漢市では122日深夜から23日早朝にかけて、当日23日の朝10時から市外への公共交通機関の運営を暫定的に見合わせる措置を発表しました【】。さらに、123日には黄岡市でも当日24時から同様の措置を講じています。【

日本の外務省も、123日、中国湖北省武漢市の感染症危険レベルを「レベル2:不要不急の渡航は止めてください。」へと引き上げています【】。

【1/24更新】日本の外務省の感染症危険情報は、124日の夕方頃には武漢市を含む湖北省全域につき「レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告)」へと引き上げられました。

 

二、 対応

1.サプライチェーンへの影響

湖北省武漢市は、鉄鋼、自動車産業が盛んな場所であり、ここ数年は新エネルギー自動車の開発・生産拠点の建設も進んでいます。また、IT関連企業の業務を行うオフショア開発の委託先となるソフトウェア開発企業も集まっており、日系企業の方々は出張で赴かれることも多いと思われます。

既に春節休暇の時期に入っておりますので、基本的には業務上の支障は直ちには生じにくい状況と思われますが、今後の状況如何では物流面での制約や、帰省した従業員が武漢に戻らない事例などが生じ、納期遅延等が発生する可能性も予想されます。

個別具体的な場面では不可抗力に該当するかどうか判断に迷うケースもあり、後日紛争に発展してしまうケースもあろうかと思われますので、関係する現地報道等については取引先にも随時報告し、不可抗力事由についての認識を客観的な記録として残しておくように配慮いただければと思います。

 

2.現地人員の安全確保

感染症危険情報のレベルがさらに引き上げられた場合を想定すると、「レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告)」、「レベル4:退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告)」というレベルが設定されており、さらに、「現地の安全な場所に留まり,感染対策を徹底してください。」などの注意喚起情報が付記されていくことが予想されます。

1/24更新】上記のとおり、既にレベル3への引き上げが行われており、また他の地域でも移動が困難になる可能性も予想されます。

1/27更新】文化及び旅行部からは124日付け(Web掲載は126日)で、団体旅行及び「航空券+ホテル」の旅行商品の販売を暫定的に停止するようにとの緊急通知が出ています【6】。通知の文面を見る限り、国内・国外いずれの旅行も区別されていませんが、武漢市では出入国管理局での関連業務が暫定的に停止されており【7】、旅行以外にも影響する可能性もあります。

企業としては、日本からの赴任者・出張者であれ、中国現地のローカル従業員であれ、日本にいう安全配慮義務を負っていますので、これらの危険情報が出ているにもかかわらず対策を講じずに業務に従事させてしまうことがないように留意いただくべきでしょう。

1/27更新】人の集中による感染拡大を避けるため、春節(旧正月)休暇も22日まで延長されています(126日付けの国務院弁公庁通知【8】)。

※ この点については、書籍『これからの中国ビジネスがよくわかる本 中国専門トップ弁護士が教えるチャイナリスクと対応策』20138月 ダイヤモンド社)巻末のQ&Aでもご紹介しています。

 

3.その他

《伝染病予防・治療法》12条により、およそ中国国内のすべての企業及び個人は、伝染病に関する調査、検査、サンプル採集及び隔離治療等の予防及び統制措置を受け入れなければなりません。

このほか、もし伝染病について不正確な情報を発信してしまった場合は行政勾留及び罰金の処罰を受ける可能性がありますし(《治安管理処罰法》25条)、さらには虚偽の疫病発生流行状況を伝播したとして懲役刑に処される可能性もあります(《刑法》291条の12項)。したがって、真偽不明な情報を不用意に拡散してしまうことがないように十分にご注意ください。

※ キャスト中国ビジネスの過去のQ&A「突発事件対応法」への対応】も、この機会に合わせてご覧ください。

 


[3] http://www.hubei.gov.cn/zhuanti/2020/gzxxgzbd/zxtb/202001/t20200123_2014402.shtml(武市新型冠状病毒感染的肺炎疫情防控指部通告(第1号)

[4] http://wjw.hg.gov.cn/art/2020/1/23/art_4668_892362.html(黄市新型冠状病毒感染的肺炎防控工作指部通告(第1号))

以上

 

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