弁護士法人キャスト糸賀
弁護士 村 尾 龍 雄
■Q6 固定期間の長期化を図る方法の内容及びその限界について教えてください。
■A 固定期間の長期化を図る方法は、労働契約法第14条第2項第3号の規定する2回連続の労働契約締結後の更新により、無固定期間労働契約化するタイミングを長期化させて、使用者に付与された2回の更新拒絶権行使(雇止め)の機会(前述の通り、使用者は1回限り雇止めの機会を有するとの説があり得ますが、ここでは原稿作成時点における一般的理解を前提として、このように解することにします。以下、同様の記載のある場合について同じ)を確実にすることを目的とするものです。
2回連続の労働契約締結後の更新により、無固定期間労働契約化を強制する法制度は2008年1月1日の労働契約施行日以降の更新の機会からカウントされますので(労働契約法第97条第1項)、同日以降の更新の機会に、従前のように1年の固定期間を例えば2年、3年の固定期間に改め、その間に労働者の資質等をしっかりと見極めて、雇止めの対象とすべき労働者についてはそのようにし、優秀な労働者についてのみ無固定期間労働契約化することを認めるというアプローチは有効であるように思われます。
しかし、この方法には2つの大きな限界があります。
1、連続10年勤務ルールとの競合問題
まず、2回連続の労働契約締結により無固定期間労働契約化の強制が働くルールは2008年1月1日以降に適用されますが、連続10年の勤務により無固定期間労働契約化の強制が働くという労働契約法第14条第2項第1号のルールは2007年12月31日以前の稼動年数も取り込んで計算することを要求するために、同日において連続10年勤務になる労働者については2008年1月1日以降の固定期間満了日において、使用者に雇止めの権利はなく、無固定期間労働契約化が強制されます。2007年12月31日において連続10年勤務になる労働者がいないとしても、6年、7年になる労働者がいる場合に、2008年1月1日以降の固定期間を2年、3年とするときには、同日以降、1回目か2回目の固定期間満了日に既に連続10年勤務の要件を満たしてしまうために、使用者に雇止めの権利はなく、無固定期間労働契約化が強制される結果が生じます。このように2つの異なるルールの競合により、固定期間の長期化という方法が期待通りの機能を果たし得るのは、2008年1月1日以降に新規設立する企業だけであり【11】、2007年12月31日以前に設立した企業は、長短の区別こそあれ、それまでの稼動年 数が連続10年勤務の基礎に算入されるため、連続10年勤務ルールとの競合により、所期の目的を達することができなくなる可能性がある点に注意を払う必要があります。
2、労働者の見極めが2回の機会で本当に可能か、という問題
固定期間の長期化により、使用者が2回の雇止めの機会で労働者の見極めを行うという仮説は本当でしょうか。
まず、労働者のうち人材、すなわち日本の短期大学に相当する大専卒業者を中心とする、各地の人事局が管轄権を有する者について考察します。
人材について性悪説的発想に立てば、2回の雇止めの機会(試用期間【12】における解雇の積極的活用を含めることを考えれば、3回)の到来まではおとなしくしておいて、無固定期間労働契約化後、就業規則違反で解雇にならない程度に手を抜いたり、賃金上昇などの権利行使のみ積極化させる狡猾な労働者が存在するリスクが想定されます。また、性悪説的発想を前提としないとしても、なおリスクはあります。すなわち、平均的な人材が22歳で入社すると仮定して、固定期間を2、3年とする場合は4乃至6年で無固定期間労働契約化し、遅くとも連続10年勤務ルールとの関係より、入社後10年で無固定期間労働契約化するわけですが、そうだとすれば男性人材の場合、満60歳の定年まで30歳前後からの30年前後の雇用を保証しなければならない中、若い時代にはやる気もあり、無固定期間労働契約化にふさわしいと判断してそうしたけれども、年齢が高くなるにつれて、真面目ではあるが、リーダーとしての資質に大きく欠けることが判明し、年齢に伴う賃金の高コスト化には見合わないことが明白になるリスクがあります。こうしたリスクは2回の雇止めの機会の活用では克服不能なものです。
次に、労働者のうち労働力、すなわち高等学校卒業以下の学歴保有者で、比較的単純な労働に従事しており、各地の労働及び社会保障局が管轄権を有する者について考察します。
労働力である労働者についても人材について指摘したところと共通する問題があるほか、数千人から時に1万人を超える日系の生産型企業も多々ある中で、ここまで多数の労働力である労働者について、公平で平等を疑われることのない人事評価を制定し、これを執行することが可能でしょうか。それが不可能又は困難であるとすれば、それ自体がリスクであるといえるでしょう。また、労働力である労働者に関しては、決定的リスクがあります。すなわち、いかに真面目な労働力である労働者であっても、全員が熟練工や高級技術者になることはできないのであって、年齢と共に体力が低下して、高コスト化に見合うだけの労働力の提供が困難になることは必定です。ところが、2回の雇止めの機会を活用するアプローチは、労働力である労働者が若い時代の最長10年以内の短期間で無固定期間労働契約化すべきか否かの選択を行うことを内容とするものであり、そこでは労働者の人格や資質、識見、能力等が問題とされるだけであって、「人は必ず老いる」という克服不可能な自然の摂理との関係は一切考察対象外とされます。こうした文脈で「合格」と判断された労働力である労働者が累積すると、その工場は年数の経過と共に活力を失い、コスト高となって、やがて本社の工場閉鎖決定が下ることになるでしょう。このように2回の雇止めの機会を活用するアプローチは、労働力である労働者について克服不能のリスクを抱えるのであり、このアプローチに依拠する場合、中長期的には工場閉鎖を選択するのと同様である、との見方が成立するかもしれません。
このようにして2回の雇止めの機会を活用するアプローチは、労働契約法の施行前後には1つのソリューションとして考察対象となるでしょうけれども、中長期的にはこれのみに依拠するアプローチの不合理が明白になっていくものと考えます。
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【11】2008年1月1日以降に新規設立する企業は、固定期間を4年11.5ヶ月とし、2回の合計で9年11ヶ月となるように設計したり、初回を3年、2回目を6年11ヶ月となるように設計するなど、2回の雇止めの機会を確保できるように工夫をする余地があります。
【12】労働契約法第21条は「試用期間において、労働者に第39条並びに第40条第(1)号及び第(2)号所定の事由がある場合を除き、雇用単位は、労働契約を解除してはならない。雇用単位は、試用期間に労働契約を解除する場合には、労働者に理由を説明しなければならない。」と規定する一方で、同法第39条第1号が「試用期間において採用条件に適合しないことが証明されたとき。」を解除事由としていることより、規定形式はともかく、理由説明義務が使用者に課されたことは別として、労働法第25条と実質的な変更はないとの見方もあり得るところです。しかし、労働者の雇用の促進・安定を図る労働契約法の施行後は、使用者が労働者に事前に採用条件を明確に説明することが強く求められ、またこれを口頭のみで済ませ、書面説明を怠るときには、後に労働紛争が発生したときに労働争議仲裁委員会及び人民法院により、使用者が採用条件の不適合を証明することに失敗したと認定されることにより、試用期間中の解除が相対的に困難になる傾向があると思われます。試用期間中の解除を積極化したいと希望するならば、採用条件の明確な設定を心掛ける必要があると思われます。