

以前にもこのコラムで中国では、倒れている老人を親切心で助け起こしたら、逆に「あんたのせいで倒れたんだから賠償しろ」と訴えられることがあるため、道端に倒れている人がいても、救いの手を差し伸べられない、手を貸す場合には動画を撮影して自分のせいで倒れたのでないことを証明できるようにしてからしか助けられない風潮になっていることを書かせてもらいましたが、先週、江西省で通りがかりの若者が道端に倒れていたお婆さんを助け起こして、お婆さんにケガがないこと確認して、去っていこうとしたら、そのお婆さんが後追いしてきて、「あんたのせいだから賠償しろ!」と叫んでいる動画が拡散されていました。助けた若者は自分で動画を撮っていたのと、近くにいたオジサンが「いい年してそんなことするもんじゃないよ」といってその若者のせいでないことを立証してくれたようですが、この動画へのコメントに「詐欺罪で捕まえろ」というような書き込み以外に「王浩に感謝しろ!」「王浩に助けさせろ!」「王浩に・・・」と「王浩」という名前が羅列されていました。
この「王浩」とは、2006年11月20日、中国・南京市のバス停で20代の男性、彭宇が、バス停で転んでいた高齢女性を助け起こし、病院に連れて行ったが、その女性の家族は、「彭宇がぶつかって転ばせた」として、賠償を求めて裁判を起こし、一審判決で「もし被告(彭宇)が単なる“善意の第三者”だったなら、女性の家族が到着した時点で事情を説明して立ち去るのが通常の行動である。しかし彼はそうしなかった。したがって、ぶつかった事実があったと認めるのが妥当」と判決を下した王浩裁判官のことです。この判決は中国全土で激しい議論を巻き起こし、「善意が罰せられるなら、もう困っている人を助けられない」 という意見が広がり、「高齢者が倒れていても助けない」という行動が現実に増えたとされ、この事件から20年が経った今も、裁判官の名前が人々の話題に上り続けるほど社会的影響の大きい事件だったようです。
永野