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【ミニコラム 第115号】 「アイスの刺客」たちの終焉

メールマガジン
2025年07月11日


 「アイスの刺客(雪糕刺客)」とは、ここ数年中国で流行したネットスラングです。アイスケースにひっそりと潜み、見た目はごく普通。ただ、それをレジに持っていった瞬間、その高額な価格に驚かされる──そんな“不意打ち”から、この呼び名が生まれました。
 この「アイスの刺客」の象徴とも言える高級アイスブランド「鐘薛高(Chicecream)」が、経営危機に直面しています。年間売上10億元を誇り、“アイス界のエルメス”とも称された同社ですが、最近になって関連子会社が取引先から破産審査を申し立てられ、再び世間の注目を集めました。
 鐘薛高は「中国式の高級アイス」というコンセプトを掲げ、1本あたり15〜66元という強気の価格設定で、庶民的なアイスが並ぶコンビニの冷凍ケースにこっそり紛れ込ませる販売スタイルにより、会計時のギャップが“刺客感”を際立たせ、「アイスの刺客」と揶揄されるようになったのです。
 しかしその後、虚偽広告による処分や、「火であぶっても溶けないアイス」騒動などが相次ぎ、ブランドイメージは急速に崩壊。消費者に敬遠され、評判も失墜しました。立て直しを図ったものの流れは変えられず、2024年以降は各地の工場が次々と操業停止。創業者も高額消費の制限措置(債務不履行者に対する制限)を受け、小紅書でライブ配信しながらサツマイモを販売するまでに追い込まれました。しかし、そのサツマイモも5斤(2.5キロ)で42.9元(約900円)と高価格だったため、「今度は“サツマイモの刺客”か」と揶揄される始末でした。
 実際、鐘薛高だけでなく、「アイスの刺客」と呼ばれた高価格帯ブランドは2025年7月時点で軒並み失速しています。消費者の関心が再び「価格と味のバランス」へと戻る中、冷凍ケースの主役は3〜5元の定番アイスに回帰。現在ではケースの7割以上を低価格帯商品が占めています。
 資本とマーケティングに支えられたバブル的な繁栄は限界を迎え、結局は冷凍庫の主導権を握るのは、やはり「美味しいかどうか」というシンプルなところの落ち着いたようです。
 

三石


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