コロナの流行が落ち着くにつれ、中国と海外との交流が徐々に回復し、外国人観光客の数も少しずつ増加していますが、中国を旅行する外国人観光客にとって、支払いの難しさが悩みの種となっているようです。中国はモバイル決済の分野で世界の最先端を走っており、モバイル決済は国民が日常の買い物で決済に使う主な手段となっていますが、多くの国や地域での主な決済手段は今もカードや現金であり、モバイル決済を利用する人はそれほど多くありません。支払い習慣の違いが、中国旅行に際しての課題を生み出しています。
これに対応するため、先日、アリペイが新しい国際バージョンアプリを発表しました。このアプリにより、外国人旅行者向けに支払体験の全プロセスをさらに最適化し、海外の五つの主要な国際銀行カードと紐づけできるようになりました。また、WeChatも、WeChat Payが国際カードユーザー向けサービスの全面的なアップグレードを完了したと発表しています。これは、外国人観光客がより簡単にモバイル決済を開通し、利用できるようになったことを意味します。しかし、外国人観光客は、個人情報やカード情報流出による被害を恐れて、モバイル決済を可能にするために海外カードを中国製アプリと紐付けることに消極的な場合が多いようです。海外カードを紐付けていても限度額の問題があります。現在、アリペイの海外銀行カード決済は、1回あたりの限度額が3,000人民元で、月間の累計が50,000人民元、年間の累計が60,000人民元となっています。この限度額は、食事や宿泊、観光スポット巡りといったニーズには対応できますが、宝飾品や陶磁器、時計といった高額商品の購入ニーズに応えることは難しいでしょう。
このほか、モバイル決済が使えないため、外国人観光客はタクシーの利用、観光、食事、買い物など、さまざまな面で支障をきたしています。タクシーはアプリで呼び、携帯電話で支払いますし、観光スポットに入るには、事前にQRコードで予約しなければなりません。レストランでの食事は、コードをスキャンしてスマホで注文・支払いをすることが多く、のどが渇いて自動販売機で飲み物を購入するのも、コードをスキャンしてモバイル決済する必要があります。ショッピングモールに行くと、海外カードが使える決済端末がない加盟店や、現金で支払うとお釣りが出ない加盟店に出くわすことも多いです。
最近、上海市政府参事会グループは、インバウンド旅行者の決済の利便性を向上させることを提言しました。具体的には、空港や港などの最初の入国地点に特別な決済サービスカウンターを設置し、両替だけでなく、モバイル決済アプリの宣伝やダウンロード・利用支援などのサービスを提供すること、決済端末の海外カードへの対応不足が深刻であることから、既存の端末をアップグレードし、カード、コードスキャン、銀聯ネットワークのモニタリングなどの総合機能を兼ね備えた端末の普及をすすめること、及び金融安全保障の確保を前提に、海外カードによるモバイル決済の改善、手続きの簡素化、限度額の開放、監督強化のための調査を行うことが提案されています。
実は、国務院は19年に「インバウンド観光客向けのモバイル決済ソリューションを改善し、観光客の消費の利便性を高める」ことを提言していました。コロナの流行で3年間遅れたかもしれませんが、流行が収まった今、早期に解決されることが望まれます。
(三石)