中国の学生に日本企業の法務の現状を知ってもらおうと、キャストグループと上海交通大学法学院はこのほど、同大学で年間企画「多国籍企業法務シリーズ講座」を開設した。日本企業に勤める法務マンが「現場」での経験を踏まえながら講師を務めるもので、5月13日に行われた第一回目の講座には伊藤ハム法務室の大澤頼人・室長が登壇。日本における企業法務の歴史を振り返りながら、多国籍企業における企業法務の重要性について熱弁を振るった。 「企業経営と法律~企業価値を高めるために」と題して行われた第一回目の講座では、大澤室長が1955年に設立された商事法務研究会など主要5団体を紹介しながら日本における企業法務の歴史を紹介。「高度経済成長期に公害、労災などによる裁判対策から始まった企業法務は、消費者からの訴訟、国際競争時代における紛争リスク、知的財産権の保護、企業が社会全体に対して責任を持つCSRの時代に突入している」と解説した。 また、1995年に発覚した邦銀ニューヨーク支店での巨額損失事件を紹介しながら、事業ごとのリスク管理、法令順守の重要性に触れ、「みんなやっているからいいじゃないか、というのは間違い。問題を認識しながらその処理を先延ばしする企業の体質こそが問題」と強調した。90分の講義の後には、聴講した生徒から「経営陣と法務部の意見が食い違った場合はどうすればよいのか」「法務部で仕事をしたい場合、新卒者は何から始めればよいのか」などの質問も盛んに飛び出し、会場は終始、熱気に包まれていた。 講座の開始にあたり行われた開講式で、同法学院の鄭成良院長は「学生の皆さんは、この貴重な機会を活かし、実際の経験の中からいろいろと学んで欲しい」とあいさつ。キャストグループ側の共同企画責任者の高師坤律師は、「日本と中国の友好交流に少しでも貢献できれば」と話していた。講座は今後一年間に亘って定期的に開催される。 |
講師:伊藤ハム法務室 大澤頼人室長 |