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《民法典》で契約の実務はどう変わる?

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2020年06月25日

《民法典》で契約の実務はどう変わる?

 

執筆者: 弁護士法人キャスト            

日本国弁護士・中小企業診断士  金藤 力    

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1、《民法典》が来年1月から施行

 

 2020528日、第13期全国人民代表大会第3回会議において、《民法典》が採択されて成立しました【1】。この新たな法律、《民法典》の施行日は202111日ですが、その施行と同時に、従来の関連法令である《婚姻法》、《相続法》、《民法通則》、《養子縁組法》、《担保法》、《契約法》、《物権法》、《権利侵害責任法》及び《民法総則》が廃止されることになります(《民法典》第1260条)。

 《民法典》は、7つの編からなり、1260ヶ条にも及ぶ大部なものなのですが、やっかいなことに、従来の法律や司法解釈などで定められていたルールを単純に合体させたわけではなく、この機会に従来のルールを変えた部分が多数あるようです。

 

 

中国法令・事例ワークショップ資料(5月第4週分)より:

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 改正により企業活動にどのような影響が生じるのかについては、残念ながら未だ整理された情報は無いようで、正確でない情報もときどき見かけます。例えば、「住宅建設用地使用権について、期間満了後は自動延長されることとなった」というような説明を見かけるのですが、これは従来から《物権法》第149条にも書いてあったことですので、今回の《民法典》による改正点ではなさそうです。(ただ、その規定内容が詳しくなったという改正はあります。)

かくいう私自身もまだ整理しきれてはいないのですが、現状までに気づいたところでも実務にかなり影響しそうな箇所がありましたので、今回は、まずは契約にまつわる実務に関係ありそうな箇所についてお知らせします。

 

2、うっかり見過ごしそうな改正内容も

 

 まず、私自身が驚いた項目として、2つご紹介しておきます。

 

1)「保証」と書けば連帯保証だったのに、来年からは一般保証になる

 

中国でも、「保証」には日本と同じように一般保証と連帯保証の2種類があります。これまでは、単に「保証」とだけ契約書に書いてあってどちらか明確に記載されていない場合は、連帯保証として責任を負うとされていました(《担保法》第19条)。

ところが、《民法典》では、このルールを逆にして、明確な記載がない限り、連帯保証ではなく一般保証としての責任を負うにとどまるものとされました(《民法典》第686条)。一般保証となりますと、基本的には、先に主債務者を訴訟で訴えて判決を得て、強制執行をして回収ができないと分かった後でないと保証人に請求できないことになりますから、このたった2文字があるかないかで、結果が随分変わってしまうことになります。

 

2)所有権留保には登記が必要に?

 

売買契約をするときに、「代金全額が支払われるまでは目的物の所有権は売主に帰属する」といった所有権留保の約定は、日系企業の方々にとっては比較的なじみがあるものと思います。この所有権留保について、今回の《民法典》では、登記がなければ善意の第三者に対抗できないという条文が追加されました(《民法典》第641条)。

しかしながら、不動産であればともかく、動産の場合にはこのような所有権留保についての登記をしようとしても、その登記制度が用意されていません。また、所有権留保が使われるのは通常は継続的な取引でしょうから、所有権留保の対象となる商品や貨物も毎月入れ替わっていくはずです。ですから、この新しい条文にどう対応すればよいのか判然としないのですが、このような新しい条文が登場した以上、従来どおり契約書に所有権留保の約定を置いているだけでは、いざというときに権利を認めてもらうことはできないケースも発生しそうです。

 

3、売買、請負、賃貸借...《契約法》の典型契約に関する規定の変化

 

 従来の《契約法》で定められていた売買や請負、賃貸借に関するルールも、《民法典》と条文を比較してみると、いろいろと変更・追加された部分があります。そのうちには、従来の関連法令や司法解釈で既に規定されていたものも多数含まれていますので、どの部分が従来からのルール変更になるのか区別するのが難しいのですが、該当しそうな項目を列挙してみます。

 

【売買】

l 目的物の瑕疵についての責任を免除・軽減する約定がある場合でも、売主が故意又は重過失により買主にその瑕疵を告知しなかった場合、売主はその責任の免除・軽減を主張できない(第618条)

l 目的物につき法律法規又は約定により有効使用期限満了後に回収すべきものは、売主が自ら又は第三者に委託して回収する義務を負う(第625条)

l 代金の分割払につき支払遅延が価格総額の5分の1を超え、且つ催告を経て合理的期間内に支払がない場合、売主は一括支払又は解除を請求できる(第634条)(下線部を追加)

l 売買契約における所有権留保の約定は、登記がなければ善意の第三者に対抗できない(第641条)

 

【金銭消費貸借】

l 高利貸付の禁止。貸付利率は国家の関係規定に違反してはならない(第680条)

l 金銭消費貸借契約で利息につき約定がない場合、利息がないものとみなす(同上)

l 自然人の間での金銭消費貸借契約は、利息がないものとみなす(同上)

 

【賃貸借】

l 賃借人の過失により修繕が必要になった場合、賃貸人は修繕義務を負わない(第713条)

l 賃貸借期間満了時に建物賃借人が同等条件で優先的に賃借できる権利を規定(第734条)

 

【ファイナンスリース】

l リース物件を虚構する方式で締結したファイナンスリース契約は無効とする(第737条)

l リース期間満了時にリース物件がレッサー所有に帰する約定があり、毀損・滅失又は附合・混合により返還不能となった場合、レッサーは合理的賠償を請求できる(第758条)

l リース期間満了時にレッシーが象徴性の価格のみを支払う約定がある場合は、リース料の支払完了後はリース物件はレッシーの所有に帰するものとみなす(第759条)

 

【請負】

l 特になし。(従来から司法解釈【2】で定められていたルールと大差ないようです。)

 

【運送】

l 実名制の旅客運送契約で旅客が切符を紛失した場合、再発行を求めることができ、運送人は切符代その他の不合理な費用を収受してはならない(第815条)

l 旅客運送で運送人が正常に運行できない場合の旅客への通知義務等を追加(第820条)

 

【技術】

l 職務発明成果に関して締結する技術契約の条文から、職務発明に対する報奨又は報酬についての記述を削除(第847条)【3】

l 共同開発で生じた発明創造につき共有となる特許に関して、共有者の優先買取権につき、「当事者が別途約定する場合を除く」との但書を追加(第860条)

l ノウハウのライセンス契約が「技術譲渡」ではなく「技術ライセンス契約」であることを明確化(第863条)【4】

l ノウハウの譲渡人又はライセンサーが技術資料の提供や技術指導を行うとともに秘密保持義務を負う旨の規定に追加して、この秘密保持義務がライセンサーによる特許申請を制限しないことを規定(第868条)

 

【寄託/倉庫保管】

l ショッピング、レストラン、ホテル等において指定場所に物品を置く場合、別途の約定又は取引習慣がない限り、寄託とみなす旨の規定を追加(第888条)

 

【委託】

l 委託契約の中途解約による賠償につき、無償の場合と有償の場合で賠償範囲を区別する旨の規定を追加(第933条)

 

【取次】

l なし(《契約法》と比較して、改正箇所は特に見当たらず。)

 

4、《契約法》になかった典型契約を追加

 

《民法典》では、《契約法》に比べて、保証契約(第13章)、ファクタリング契約(第16章)、物業(不動産管理)サービス契約(第24章)及び組合(パートナーシップ)契約(第27章)についての規定を追加しています。このうちには、保証契約については上記で紹介したような、従来からのルールを180度変更してしまうような改正も含まれてはいますが、私自身が整理しきれていませんので、ここでは内容の紹介は割愛いたします。

 

5、おわりに

 

上記ご紹介した改正点は、あくまでもごく一部です。《民法典》による改正によって実務にどのような影響があるのかについては、今後、さまざまな情報が出てくるものと思われますので、そういった情報には簡単にでも目を通していただいて、普段使っている契約書の書式を変更しなければならない箇所がないかなど、少し意識して考えてみていただければと思います。

また、これから中国の法律にかかわっていこうとする若手の方々にとっては、ちょうど良い機会でもあると思いますので、ぜひ、この《民法典》施行に向けて、中国のルールについて知る機会として活用いただければと希望しています。

 

以上

 

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[2] 《建設工事施工契約紛争事件を審理する際の法律適用問題に関する最高人民法院の解釈》(法釈[2004]14号)などがあります。

[3] 《契約法》第326条で「法人その他組織は、当該職務技術成果の使用及び譲渡により取得する収益の中から一定比率を算出して、当該職務技術成果を完成させた個人に対し報奨又は報酬を与えなければならない。」と規定されていた部分が削除されました。ただ、他の箇所と規定が重複しているので整理したという趣旨かもしれず、報奨又は報酬を与える義務がなくなったと理解してよいのかどうか、判然としません。

[4] 《契約法》第342条では、技術譲渡契約に含まれるものとして「特許権譲渡、特許出願権譲渡、技術秘密譲渡及び特許実施許諾契約」の4つが列挙されていたところ、ノウハウライセンス契約が「技術秘密譲渡」に該当するのかどうか分かりにくかったのですが、今回の改正で整理されました。