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新型肺炎(新型コロナウイルス感染症:COVID-19)の影響による倒産と休業(日中両国で)(無料公開)

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2020年03月05日

新型肺炎(新型コロナウイルス感染症:COVID-19)の影響による倒産と休業(日中両国で)

 

  執筆者: 弁護士法人キャスト   

日本国弁護士・中小企業診断士  金藤 力  

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1、中国で日本のような連鎖倒産は起こらない

 今回の新型コロナウイルス肺炎(新型コロナウイルス感染症:COVID-19)は中国でも日本でも大きな影響をもたらしています。私も微力ながら日系企業各社のお役に立つべく、これまで2つの記事を無料公開してきました。

  ➢新型肺炎による納期遅延は、「不可抗力」「事情変更」に該当するか(2月4日)
  ➢操業再開にあたっての新型肺炎(新型コロナウイルス感染症:COVID-19)の拡大防止(2月25日)

 「指紋認証での勤怠管理をやめる」、「重ね着してでも部屋の換気を良くする」など、中国で先んじて大きな犠牲を払いながら得たノウハウが示されており、これらは「先人の知恵」として、日本での現在・今後の対策にも参考になろうかと思います。

 さて、各種の報道を見ていますと、中国で連鎖倒産が起こるのではないか?という心配をされている方々もいらっしゃったようです。しかし、私が中国現地で仕事をしていた経験からは、中国で日本のような連鎖倒産が起こることはイメージしづらいです。
 従来からセミナーでもいつもご紹介し、この1月に出版された拙著「弁護士が語る 中国ビジネスの勘所」でも述べたところですが【1】、中国企業は日本企業と違って、手形の不渡りによる銀行取引停止処分という形で倒産に至るというルートが存在しません。ですから、債務の支払が滞ったとしても、そのままズルズルと生き残ったままの状態になります。まじめに法的手続を経て債務を整理しようとする企業も個人も稀であり、圧倒的多数は何もせず放置された状態となります。中身を別の会社に移して「衣替え」することもありますが、中身もそのままで休眠していて、何年か経った後に事業を再開することもあります。

 ですから、中国の会社はそう簡単には、目に見えて「倒産した」と分かる状態にはなりません。債権者側も同じように他社への支払を延ばしながら待つという対応をとり、徐々に影響が薄まっていきますので、日本のような連鎖倒産の状況にはなりません。
 ただ、現金がなくなることで従業員への給与支払が滞ったり、仕入ができなくなって事業活動が継続できず休眠にならざるを得なくなったり、会社は「倒産」しておらずとも経済活動としては停滞してしまいます。「衣替え」で新しい会社を作って仕事を続けていれば良いのですが、現金がなければそれもできません。これでは困りますので、中国政府としては、各企業が「ガス欠」で動けなくなる状態が生じないように、中小零細企業向けに元利金の返済を猶予したり、中小零細企業への新規貸付の増加のため努力したりといった対応を銀行等の金融機関に対して求めています(銀保監会・人民銀行など5部門による3月1日付け通知【2】など)。

2、「郷に入れば郷に従う」ことも

 日系企業で中国に現地法人をお持ちの場合でも、事業は停止しているのに家賃や従業員給与などの固定費は出ていくので、「日本から資金を入れるか、倒産させるか」の二択であるという短絡的な誤解・思い込みをなさっていることが往々にして見られます。
 しかし、上記述べたとおり、「従業員の給与すら支払えないなら、破産するしかない」というきまじめな発想は、日本の方々に特有のものであって、中国では一般的には理解されづらく、場合によってはエキセントリックにすら見えることがあります。

 例えば、オフィスや工場の賃料については、特に何も事件等が発生していない通常の場面でも、何ヶ月か支払が遅れても大きな問題にはなりません。ましてや現在のような状況ですから、立ち退かせても新たに入居するテナントも見つかりづらいはずで、賃料の支払猶予のみならず一部減額・免除まで交渉可能である場合が多いと思われます。
 また、従業員の給与についても、2月21日に公表された人力資源社会保障部のQ&A【3】にも示されているとおり、暫時支払能力が無い状況である場合、企業工会(労働組合)及び従業員代表と協議して給与支払を延期することが認められています。

 ですから、慌てて会社の閉鎖とか倒産といった処理を決めなければならない必然性はありません。また中国では理解が得られにくい突飛な行動を選択してしまうと、その実行難度も格段に高くなります。ですので、とにかく情勢の変化を見極める時間を稼ぐ対応をお勧めしています。(もちろん、その間、何もせず放置するのではなく、状況がどちらに転ぼうとも対応できるように、できる準備をしておくことは当然のことです。)
 日本でも、債務整理のために破産などの法的手続を申請しようとすると、それなりに費用がかかります。中国ではさらに、費用の捻出の問題のほかに、「裁判所に押しかけてくる債権者や従業員の対応をどうするか」という事実上の問題まで考慮して裁判所ほか関係政府機関と相談しておかないと手続は円滑に進みませんので、「急いては事を仕損じる」ことになります。

3、日本における各種支援制度も

 日本に親会社があり、中国に子会社があるという場合、日本の親会社側でも余裕がないという状況も往々にして見られるところです。この場合、日本の親会社が中国現地法人と共倒れにならないための対応を考えることは大切です。
 日系企業各社の場合、中国子会社を閉鎖する場合でも、さまざまな理由から破産手続を選択せず、日本から資金を投入してでも通常清算を選択する場合が多いのですが、それは唯一の選択ではなく、場合によっては休眠状態で塩漬けにするなど多様な方策があり得ます。
 場合によっては、下記のような各種の日本における支援制度を活用しながら、中国現地法人側も生き残らせるということも考えられる場合がありますので、中国側、日本側、それぞれの状況を見ながら、自社の状況に合った対応策を見出していただければと思います。

 日本国内だけで事業を行われている場合でも、一部業界では深刻な影響が予想されます。日本では手形の不渡りを出せば逃げ場がなくなるなど、支払を先延ばしにすることは難しい部分があります。
 したがって、新型肺炎の患者数や生活制限の度合いとは無関係に、日本の方が連鎖倒産の懸念は大きいと思われます。いわゆるバブル崩壊後の長い不良債権処理の歴史を経て、関係する知識・経験も蓄積されているために、破産や民事再生などの法的整理手続のハードルが中国に比べると低く、目に見える形での倒産が起こりやすいということもありそうです。

 しかし、日本でも、体力のない中小企業をはじめとして、影響を受ける企業各社を支えるための施策は用意されています。以下、一例を挙げておきますが、状況次第で、今後も拡充されていくであろうと見込みます。

 (1)信用保証協会によるセーフティネット保証
      今回の新型肺炎により影響を受けている企業にも適用可能であり、3月6日からは業種別の保証(5号)について対象業種も拡大されています。この拡大された業種の中には、旅館・ホテルやフィットネスクラブなども含まれています。(詳しくは中小企業庁のWebサイト【4】をご覧ください。)

 (2)日本政策金融公庫によるセーフティネット貸付
    今後の影響が見込まれる事業者にも利用できるように、売上高減少の数値要件の部分が緩和されています【5】。つまり、今はまだ売上減少が表面化していなくても利用可能です。

 (3)雇用調整助成金の特例措置
    人件費についても、一時的な休業については雇用調整助成金の特例措置が用意されています【6】。一定の要件・手続を満たせば、休業手当や教育訓練・出向による負担額の1/2(中小企業は2/3)が支給されます。ニュースで「一人日額8,330円」と言われているのは、この雇用調整助成金のことです。なお、これとは別に、小学校等の休校に伴い保護者が休暇を取得した場合に、その休暇中に支払った賃金相当額の全額(但し日額8,330円が上限)を支給する、新たな助成金制度も創設されるとのことです【7】。

 その他、各種支援策については、経済産業省の新型コロナウイルス感染症関連の支援策パンフレット【8】でも紹介されています。このパンフレットは情報が随時更新されているようですので、折にふれてご覧いただければと思います。
 このほか、経済産業省では、学校がお休みになったことに合わせて、「学びを止めない未来の教室」ということで【9】、ITを使った教育分野のサービスを各事業者が一定期間無料開放する取り組みを紹介なさっています。中国でも工場休業や外出制限に合わせてオンライン研修動画サイトが無料開放されていましたが(会員様向け2月17日の記事参照)、この逆境を新しい産業が生まれ育つ機会にしようという頼もしい考えをお持ちになる方々がいるのは、中国でも日本でも同じであるようです。

4、おわりに

 余裕がなくとも苦しくとも、各企業の方々がこれまで事業を継続されてきたとすれば、継続的な収益をもたらす顧客からの愛顧があったことの現れであり、この社会で一定の欠かせない役割を担ってこられたことを示していると思います。中国に比べると、日本の方が信用と実績を積み重ねてきた長い歴史をもつ会社が多く、そのことには大きな意義があると感じます。
 にもかかわらず、日本と中国を比べると、上記述べたとおり、日本の方が簡単に「倒産」してしまうような印象を持っています。
 もちろん、倒産という選択自体が悪いということではありません。この機会に市場環境の変化に合わせてビジネスモデル自体を再考すべく、いったん現在の事業につき破産などの法的整理をすることは一案です。このときには従来の会社は法的整理をしたうえ、これまで培ったノウハウを次の事業に生かすことを考えるでしょう。
 たとえ一つの事業を終えるとしても、それが未来に向けた判断なら良いのですが、慌てて近視眼的な判断をしてしまわないように、この深刻な状況だからこそ少しだけ立ち止まってみていただく機会があればと願っています。

                                                                                                                                                                                                                      以上
 

 

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【1】もしお手元でこの書籍をご覧いただける方がいらっしゃいましたら、p.95「支払期限に関する『常識』」、p.139「企業の生死の境目があいまい」の各項をご参照ください。
【2】http://www.mof.gov.cn/zhengwuxinxi/caizhengxinwen/202003/t20200302_3476671.htm(中国語)
《关于对中小微企业贷款实施临时性延期还本付息的通知》(銀保監発[2020]6号)
【3】https://mp.weixin.qq.com/s/OHydqgafpxlKEuv9EBF2XA(中国語)
「复工复产中的劳动用工、劳动关系、工资待遇、社保缴费等问题,权威解答来啦!」
【4】https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200303002/20200303002.html
【5】https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200214012/20200214012.html
【6】https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
【7】https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09869.html
【8】https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html
【9】https://www.learning-innovation.go.jp/covid_19/