キャスト中国ビジネス

~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第25回 「さぼり」をマネジメントする!

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2012年09月21日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
 

「さぼり」と「取り締まり」

① 営業マンが顧客を訪問していない!?
 日本企業の海外拠点で営業部門担当の日本人責任者から、「うちの現地人営業マンは営業活動で外出していると思っていたのですが、どうやら顧客を訪問していないようなんです・・・何かいい管理方法はありませんか?」という相談を時々受けます。事の発端は、営業マンに提出を義務づけている日報では顧客を訪問しているとの記述があるのだが、実は訪問していないことが後に判明したということです。顛末は、ある時、当該顧客の日本人トップに用事があり電話をした際に、「いつもうちの営業マンがお世話になっています。先週も御社の○○さん(現地人)のお時間を頂いたようでありがとうございます。ところで・・・」と話し始めた時、その後の言葉が遮られ、「えっ?
 そうなんですか?うちの○○からはちょうど先ほど、御社の営業マンは過去2ヶ月全く訪問がないという報告を受けたばかりなのですが・・・」ということです。おかしいな?と思い、他数社の親しい顧客の日本人トップに用事を“作り”電話で聞いてみると、やはり、数か月一度も訪問した事実がないと次々に判明したとのこと。そこで、当の営業マンを呼び出して事の真実を確認してみると、やはり日報内容は虚偽であったと認めたとのこと。本人は多くの言い訳をしていたが、深く反省していたので厳重注意にとどめ、行動の改善を観察することにしたが、営業実績が伸びないことも気になり調べてみると、日報内容とは異なり訪問していない事実がやはり数度あったようです。定期的に顧客に電話確認するのは自社のマネジメントの恥をさらすことにもなるし、だからといって、ビジネスを死守するために営業マンが担当する全ての顧客を自ら訪問するのも時間的に限界があると感じ冒頭の相談をすることにしたという経緯でした。

② ネットショップで購入した品物が会社にたくさん届く!
 特に中国では、毎月の給料のほとんどを消費活動に充当し、その中でもネットショッピングはとても盛んです。特に内勤の間接部門に多いのですが、勤務時間中にショッピングモールにアクセスして物品を購入するだけでなく、共働きの夫婦や独身者は配送先を会社に指定することも多いです。日本人マネジメントから注意を受けると、休憩時間に購入し、自宅では不在のため引き取れないので会社に配送を依頼したとのこと。この説明が事実であれば、日本のアパートやマンションのように宅配ボックスが一般的に普及していない事情を考えると合理的ですが、どうやら、勤務時間中にネットショッピングに励んでいる事実も数多くあるようです。興味深いのは、この事実はネットショッピング会社が受注した「時間」のデータでも裏付けがとれています。それはさておき、企業ではどのような方法で勤務時間中のショッピングを抑制しているのでしょうか?多くの日系企業では、日本人マネジメントがオフィス内を歩く際に社員の背中越しにアクセスしているサイトを覗いたり、IT部門の責任者にアクセスしているサイトを監視させ定期的に報告させるという方法をとっているようです。

③ 無断遅刻が多い!
 日本と異なり海外では、公共交通機関が未整備で交通渋滞がひどかったり、あるいは、国民性の影響もあり、人はそもそも時間に対してさほど厳格ではありません。従って、人が開始時間や集合時間に遅れることは日本よりも多くなります。一方で、日系企業で一般的に時間に厳格な日本人と仕事をする限り、最低限のビジネスマナーとして遅れそうな場合は上司や関係者の携帯電話に連絡を入れることは徹底しなければいけません。また、遅れる時間幅も20分から30分というのが許容範囲といえるでしょう。しかし、誰にも連絡なく数時間平気で遅れる人もいます。さらに、上司の日本人マネジメントが出張して不在になる度に遅れたり、半日無断欠勤する人もいます。言い訳の理由は様々ですが、共働きの多い海外では、「突然子供の体調が悪くなり、配偶者と調整したが、自分が病院に連れて行きケアーをしなければいけなくなった。急なことでしかも気が動転していたので連絡を忘れてしまった」という理由は人道的な観点からも日本人の理解は得られやすいようですが、この理由が何度も続くと事態は異なります。事実を確認するために“ターゲット”社員の周辺社員に事実の聞き取りや監視などを依頼する日本人マネジメントもいるようです。また、ある日系企業では、コストの高い日本人駐在員の若手が毎朝、30分早く出社して正面玄関の前で遅刻者のチェックを続け、その結果を毎週、表とグラフでまとめて上司に報告しているという話もありますが、これは費用対効果がかなり低い仕事と言わざるをえません。遅刻も「さぼり」の一種ですが、「さぼり」の「取り締まり」に時間とコストをかけるのは「後ろ向きな行動」であって必ずしも得策といえません。

「さぼり」が起きる本質的な理由と対応策

 社員が「さぼる」一番の原因は仕事が少なく「ヒマ」なのです。そして多くの場合は「向上心、やる気」を失っているのです。仕事に対する熱意や面白みを見いだせていないともいえます。さらに、評価や報酬に大きな不満があり、心が仕事から離れてしまっている場合もあります。志が高く、自分の目指すことが実現できる新天地を求めて転職活動をしていればまだしも、多くの場合は、「ヒマ」で「やる気」を失って「さぼり」に走り、結果的に周囲に迷惑や悪影響を与えていることが多いように感じます。本人の行動に問題があることは否めませんが、このような社員が複数あるいは多く存在する場合は、マネジメントの責任が問われることになり、自責型のマネジメントを強く意識する必要があります。起きている「さぼり」の事実を少なくするためには、「取り締まり」という後ろ向きの行動よりも、「忙しく」、「やる気」の出る状態を早く作り、健全なマネジメント体制に向けてアクセルを踏むことが大切なのです。このプロセスにおいては、少々の「さぼり」には眼をつぶり、正面から取り合わないことが大切です。その一方でマネジメントは、各社員が達成しなければいけない成果を明確にし、事実に基づいて適切に評価し、①優秀で引き留めたい社員②今はさほど優秀ではないが成長の見込みが十分期待できる社員③成長の見込みがない社員を、見極める行動をとり、組織の中にほど良い緊張感を起こす行動をとることが大切なのです。また一方で、会社の発展の「絵」を描き、それを伝えていくことも重要です。この場合、「就社」傾向の強い日本人は「会社の将来」に安心感を抱きがちですが、海外の社員は会社が発展することはとりもなおさず、自分の「職の継続」や「昇進機会=キャリアの発展空間の確保」という意味で安心感を抱き、向上心とモチベーションをアップさせていくことになります。このようなマネジメントの前向きな行動をとおして、職場の雰囲気や環境を明るくしていくことが「さぼり」を解決する本質的な対策といえます。