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~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第27回 納期を守らない!~その1~

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2012年09月21日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
 

国籍に関わらず、さまざまな関係の中で起き得る

 「中国人は、ベトナム人は、タイ人は、インドネシア人は・・・・納期を守らない!」という日本人マネジメントの不満や愚痴をよく聞きます。対象となる国にも限りがありません。ただ、話しが進むにつれて、「そういえば、日本本社でも納期を守らない日本人はいるね・・・」「いや、海外拠点の日本人駐在員の中にもいるいる!」「でも、程度問題かもしれないけど、現地人材(例:中国人)の方が納期を守らない人が多いと思うけど・・・」という具合です。

 人と人が仕事をしている限り、納期を守らないという現象は、国籍を問わず起きますし、上司、部下の関係に限らず、部門間、社外の協力会社との間など様々な関係の中で起き得ることです。

納期は「時間」だけでなく、「品質」とセットになっている!

 また、「納期を守る」という言葉には、通常、言外に「(期待している)品質を(そこそこ)伴って」ということが条件として含まれています。従って、ただ、約束した時間を守ればよい、ということではないことがポイントです。約束した時間とおりに提出しても品質が伴っていなければ、「なんだ、これは!?」「指示したことと違うじゃない!?」という批判を受けることになります。一方で、仕事の品質に気を取られて時間を守ることができないと、「遅い!」「途中段階でもまずは約束した日に現状を報告すべきなのでは!?」という批判を受けることになってしまいます。

なぜ、納期を守れないのか?

 では、なぜ、人は納期を守らない、という行動をとってしまうのでしょうか?国籍を問わず、上司、部下の関係をイメージして、原因の解説を進めますが、上司、部下以外のあらゆる関係においても当てはめることができると思います。
そもそも、部下が仕事に対するやる気を失っていたり、無断遅刻、突然の音信不通、さぼりなどの不自然な行動を頻繁にとっている場合は、仕事を依頼しても納期を守らない確率は当然高まります。このような場合は、まずは、その原因を明確にし、起きている問題を解決し、平常の状態に早く戻すことが最優先となります。

 ここでは、メンタル的に平常の状態であるにもかかわらず、納期を守ることができない原因に焦点を当てることにします。結論からいえば、納期を守ることができない原因は、部下側に「不安がある」からです。人間は誰でも依頼された内容に不安を感じると、立ち止まってしまい、行動を起こすことに躊躇します。そして、時間が経つにつれて自分の中で優先順位が下がり、やがて意識する頻度が少なくなり、ふと気づいた時は、納期の直前だった、あるいは、納期が過ぎていた、という状態に無意識のうちに自分を導いてしまうものなのです。

 ビジネスの現場ではこの「不安」には大きく分けて通常、2種類あります。ひとつは、時間に関わる「不安」で、もうひとつは、品質に関わる「不安」です。部下に納期を守らせるためには、上司は部下が抱えがちなこの2つの「不安」を取り除くための行動をとることが重要になるのです。

時間に関わる「不安」

① 負荷
 日本と同じく海外でも、“できる”現地社員には社内の競争原理が働き、仕事が集中してしまう傾向があり、結果、時間に関わる不安を抱かせてしまうことが多く見受けられます。海外では役職の役割が基本的に明確なので、一定度を超えて仕事が集中すると、「役割以上の仕事」と受け止められ、給与交渉、昇進交渉にも発展しかねませんので、仕事の依頼し過ぎには注意が必要です。
 日本では、上司と部下、社員と社員の間の役割が曖昧なので、“できる”社員はどうしても自然に高負荷状態になってしまう傾向があります。しかし、“できる”社員は、やり遂げるための時間について不安を抱えるものの、そこを頑張ってやりきってこそ、“できる”と評価されることを期待して頑張ります。つまり、自分の頑張りで自分の不安を打ち消していることになるのです。従って、上司は結果的に、“できる”部下に助けられているといえます。
 ただ、極度に負荷が偏りキャパを超えてしまうと、「どこまでやらされるのか?」「どこまでやればいいのか?」と精神的に参ってしまうので、上司は部下の負荷状況を適切に把握しておかなければ、予期せぬ悲劇を引き起こしてしまうことになります。

② 納期交渉
 “できる”社員も一般的な社員も、仕事が多く忙しい時には、依頼された内容と納期を考えると、時間に関わる不安を抱えがちです。安請負をしてしまうと後で叱責を受けることになるので、このような場合は、納期交渉をすることになります。上司も多少の時間のバッファーを見込んで依頼していることが多いので、通常、よほどの緊急案件でない限り、時間に関わる交渉幅は一定度あることが多いため、うまく交渉できれば、その時点で時間に関わる不安は払拭されることになります。
 しかし、上司が日常的に話しにくい雰囲気を創っていたり、いつも高圧的である場合は、部下は納期交渉を躊躇し、悶々としてしまい、結果的に、時間に関わる不安を増幅させていくことになります。上司はこのリスクを視野に入れ、部下が納期を守ることができない原因には自分の日々の行動も大きな影響を与えてしまうことがあることをきちんと認識する必要があります。

③ 仕事の段取り力
 組織の中で一般的によく見受けられる現象は、「仕事の段取り力」が原因となった時間に関わる不安です。「仕事の段取り力」とは具体的には、「ある時間軸の中で複数の自分の仕事を同時に組み立てて遂行する力」ということです。それぞれの仕事の目的と手段、仕事を遂行するうえで関わる相手(=仕事を依頼する&依頼される相手)、その相手の思考や行動傾向を整理し、その上で、同時に進める複数の仕事を論理的に優先づけすることができなければ段取り良く仕事を進めることは難しいです。実際のところ、「仕事の段取り力」が十分でないため、仕事を「停滞」させ、あるいは、仕事の授受において「手戻り」を頻繁に起こしている人は少なくありません。このような人たちは傍から見るといつも忙しそうに見えるのが特徴です。ただ、計画とおりに仕事を完了することができないことが多いため、時間に関わる“潜在的な”不安をいつも自分で抱えてしまうことになるのです。
 また、「仕事の段取り力」というのは、上司は高くて、部下は低い、と言い切ることはできません。組織の中のどの階層においても「仕事の段取り力」に問題を抱えている人は存在します。この問題は、上司という立場やプライドは横に置いて、自他共に現状を正しく認識し、組織としての取り組みや、個人としての努力をとおして、「仕事の段取り力」を向上させていくことが、関係者の間における時間に関わる不安を軽減し、納期を守ることができない状態から抜け出していくことに繋がるのです。


次回は、2つめの「不安」である、品質に関わる「不安」についてお話します。