株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
日本本社、国内拠点、海外拠点など、どんな組織でも「部門間連携が良くない」という問題は起きがちです。
日本企業よりもはるかに業務の明確化、明文化が定着している欧米企業といえども、会社で“人間”が仕事をしている以上、業務を100%明確にし、部門間の業務の隙間を皆無にすることは不可能です。従って、国籍を問わず、どんな組織でも個人間を含めた部門間の連携行動は必須になります。
さらに、「会社業績を向上させるためには各部門が期待されている成果を達成することが必要だが、現実は、部門内で自己完結できる仕事ばかりではないので、部門間の協力が必要になる」という考え方も通常、頭の中では容易に理解できるはずです。しかし、実際のところ、行動はなかなか難しいようです。
集団対抗意識の日本
日本の企業社会では、一般的に組織のために個人を犠牲にすることが尊ばれ求められてきた経緯があり、職場においては、個人は自分が所属する「部門」のために行動する意識が高まります。その結果、自然と「集団単位」での対抗意識が高まり、それが部門間の連携行動を阻害することに繋がっていくのです。そして、部門長や部門の上位役職者が、「部門」のためではなく、「会社」のためという全体最適の視点でこのような問題を解決することになります。
2層構造の対抗意識
一方、日本企業の海外拠点では、部門長である日本人駐在員間での対抗意識、その部下である現地人材間での対抗意識、という異なる特性をもつ対抗意識が2層になって、部門間連携の拙さを引き起こしています。
まず、日本人駐在員間では、やはりごく自然と、日本での集団対抗意識が働いてしまうようです。本社サイドでの組織体制が事業部制や機能本部制の場合ですと、事態はさらに深刻です。海外拠点の日本人部門長にとって、最終評価権を持つ上司は拠点長ではなく、自分の“出身”である日本の事業部や機能本部に在籍する経営層の人になりますので、重要案件の企画、実行や組織をまたぐ問題解決の際には、どうしても日本を向いて仕事をすることになってしまいます。従って、この場合、海外拠点内での部門間連携は本社での事業部間、機能本部間連携とほぼ同じことを意味しますので、その難易度は高くなります。しかし、本社と比べて組織規模の小さい海外拠点では、お互いに協力すべきことは協力し合わないと、判断スピードが遅くなり目の前のビジネスに影響が出てしまいます。ある会社では、将来を期待されている優秀な日本人部門長が本社から派遣されていて、この人の優れた思考力、調整力や全体最適の判断力によって部門間連携に関わる問題の顕在化と深刻化を未然に防ぐことができていますが、これは偶発的な成功事例といわざるをえません。国内、海外の組織を問わず、未然防止のための行動を組織内で定着させることに真剣に取り組んでいく必要があると思います。
次に、現地人材間では、対抗意識の特性が日本人間のそれと大きく異なります。終身雇用という労働慣行の下で“就社”傾向が強い日本人と異なり、現地人材は文字通り“就職”していますので、当然のことながら、自分の役職の役割をとても重視します。従って、現場の現地人材間で部門間連携がうまくいかない現象は、部門単位ではなく「個人単位」での対抗意識が原因になっているのが実態です。具体的には、「この仕事は私の役割ではありません」とか「この仕事は○○さんの仕事だと思います」という具合です。自分の業務負荷や評価への影響が大きくなりそうであればあるほど、自分の役職の役割をベースとした、まさに1対1の対抗意識が高まることになります。
解決のための日本人部門長のスタンス
このような類の対抗意識を持つ現地人材に対して、「部門間で“こぼれている”仕事は誰かがやならいといけないでしょ?会社のためだと思って、当事者で話しあって分担を決めてちゃんとやってください!」と、どちらかの部門の上司が現地人材に指示しても、残念ながらこのメッセージは彼らの心には届きません。そもそも「会社のため」という発想がないからです。
このような場合、不満をぶつけられた(=判断を求められた)日本人上司こそ「会社のため」という全体最適の考え方で、関係する部門の日本人部門長と話しあって、どこの部門でどの業務を分担するのかを決めなければいけません。そして、大事なことは、それぞれの部門の日本人上司が自部門の現地人材に対して、決めたことを説明し、請負うと決めた業務を遂行するよう明確に指示しなければいけません。その理由は、現地人材にとっては自分の上司からの業務命令こそが絶対的なものだからです。また、解決した問題が恒常的に起きそうなことであれば、問題の繰り返し発生を防ぎ、解決のための時間を最短化するためにも、部門長間で話し合って役割記述を正式に修正することが、とても大切な行動となります。
他方、相手が“就社”している日本人ならば、「会社のためだろう!」という殺し文句や、「オペレーションが止まって会社に迷惑かけてもいいのか?」という脅し文句(笑)は一定度の効力があり、雇用がある程度保護されている代わりに、気乗りしなくてもお互い助け合って行動する可能性は高いといえます。
3つのタブー行動
部門間連携を良くするためには部門長の行動が鍵です。部門長が他部門に協力要請もしなければ協力もしない行動をとってしまうと、部下は上司に習えということで、部員にもその行動傾向が伝播してしまいます。そして、部門の中でできることに徐々に限界感が生まれ、大きな仕事にチャレンジしたい社員のモチベーションを下げてしまうことにさえ繋がります。部門や会社のビジネスが成長していくためには、既存の「業務の境界線」を崩しては引き直すという繰り返しが必要になることを上に立つ幹部は認識する必要があります。
最後に、日本企業の国内組織や海外拠点で、日本人マネジャーが部門間で連携する際にお互いに陥りがちな「タブー行動」を3つ紹介します。どの行動も好ましくないので、心当たりがある人は素直に反省してください。
① 立場の力で要請する
役職の“力学”や入社時期による“年次”などで優位に立つ人が一方的に「やれ!モード」で要請することです。たまたまこの行動を受け止めてくれる度量のある相手、あるいは、腹心のような相手であればラッキーですが、きちんとした説明と相手の立場を尊重する行動が足りないと、日本人同士でも感情的に関係がもつれることが十分あります。このような行動が習慣化してしまうと、無意識のうちに外国人に対しても同じ行動をとってしまうことになりますので、要注意です。
② 人情的に懇願する
典型的なセリフは「・・・そこをなんとかお願いできないか!?」です。この言葉ほど非論理的な言葉はありません。相手と話しあって袋小路に入ってしまった時に、その状況を打破するために使ってしまいがちな言葉です。一度成功するとまた使ってみたくなるのもこの言葉ですが、相手次第ではありますが一般的に1回限りで継続性は低いと言えます。
③ (協力してくれないことを)相手の責任にする
相手にメールで、あるいは、電話、立ち話など口頭で協力を依頼したが、メールの返信や“明確な”返答がなく、その結果、相手が行動してくれなかった場合にとりがちな行動です。具体的には、お願いした後しばらく放置し、結果、やってくれていない事実を知った時に、「お願いしましたよね!?」と暗に相手の行動を責めてしまうのです。実際は、自分の伝え方が曖昧で、伝えた後のフォローアップをしなかったことも原因として十分考えられます。目的達成のために相手の協力が必要なのであれば、相手に動いてもらうためには自分はどのような行動をとるべきなのか?ということを考えて整理することはとても重要なことです。
次回は部門間連携を良くするための具体的な行動に焦点を当ててお話します。