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~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第30回 部門間の連携がよくない! ~その2~

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2012年09月21日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
 

「会社のため」「部門のため」「自分のため」

 終身雇用という労働慣行が一般的な日本の組織(本社、国内拠点)で働く正社員は結果的に“就社”意識が高くなり、「会社のため」という大義名分をもつことになりますが、実際の日々の仕事の中では、自分が所属する「部門や部署のため」となります。特に何か大きな問題が起きていない平常時においては、新入社員から執行役員までそれぞれの立場において「部門や部署のため」という意識をもっていると言っても過言ではないでしょう。

 一方で、日本企業の海外拠点では、2種類の意識が存在しています。特に生産拠点では、上層部の役職に就いている人材のほとんどが日本から派遣された出向(駐在)社員です。この層の日本人は日本で働いている時と同じく海外でも、「会社のため」をベースとした「部門のため」という意識で仕事をすることになりがちです。他方、同じ拠点で働く中国人のほとんどは中位層以下の役職に配置され、“就職”意識が高いことから、基本的に自分の役職の役割をベースに「自分のため」というスタンスで物事を判断する傾向が強くなります。
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 「あなたたちはもう課長なのだから、“会社のため”という意識をもってお互いに連携して自分たちで問題を解決しなさい!」と言ってもなかなか期待とおりに行動してくれない、という不満や愚痴を日本人駐在員からよく聞きます。このセリフは、“就社”している日本人の心にはごく当たり前のこととして届きやすいですが、「自分のため」というスタンスで“就職”し、日常的には上司との関係の中で仕事をしている中国人の心には届きにくいのです。

連携行動を強化する

 とは言っても、会社経営を実行していく中で、「経営層」の人材には「全体最適的」なものの見方や考え方、さらに、それをベースとした行動力をしっかりと身につけてもらいたいものです。本人にとっても、現役職の位置よりも高い視点で考えて行動することは、「成長余地」を自ら埋めていくことにもなるので自分にとっても大変メリットがあることなのです。

 さて、ここで抑えておくポイントは、まず、「経営層」とはどの役職以上を指すのか?ということです。海外拠点の組織規模や組織構造次第ですが、多くの会社では、部長以上あるいは課長以上というのが一般的でしょう。

 次に、広義の「経営層」が課長以上の場合、部長層以上が「部門のため」というスタンスが強く、部門の壁を乗り越えて「全体最適的」な連携行動をとることができなければ、その下の課長だけにこの行動を求めても、課長は部長層以上の行動を日常的に観察していますので、模範行動が足りないため効果は薄いといえるでしょう。また、多くの日系企業では課長のほとんどが「自分のため」を基本スタンスとする中国人ですから、「全体最適的」な行動とはそもそも大きな隔たりがあるため、なおさら部長層以上の行動の変化が鍵となります。

 従って、まず部長層以上から「全体最適」の視点で連携行動をとることを習慣化することが最優先です。そして、その流れの中で中国人課長を巻き込んでいくような活動や取り組みが重要になります。部門間連携が求められる仕事には、いま「隙間にこぼれている」仕事もあれば、将来新しいことをやっていくために今から一緒に「組み立てて創っていく」仕事もありますが、連携行動を強化する活動を進めていく上で、このような社内の「生の」題材を活用することはとても大切なのです。

経営層は「表現」して「思考を見せる」ことが大切

 さて、連携行動を強化していくためには、実際のところ、実務的な面が重要になります。具体的には、どんな目的で、誰が、いつまでに、どんな行動をとり協力し合うのか?を明確にしなければ連携行動は前に進みません。「会社目標を達成するためには部門間の連携は欠かせない。経営層は全体最適の視点をもってお互いに協力し合うことが大切である」という“考え方”自体は、経営層ひとりひとりの頭の中では十分理解できていると思います。しかし、いざという時に無意識のうちに行動にブレーキをかけてしまうのが現実なのです。

 その原因は、ズバリ、お互いの「思考が見えない」からなのです。日本人同士の場合であれば、お互いの思考を推測しあえる余地があるかもしれませんが、日本人と中国人の間ではこの余地はとても少ないといえます。私は日々のコンサルティングの仕事の中で、日本人であろうと中国人であろうと経営層である限り、自分の頭の中にあるイメージや伝えたいことを明確に「表現」できる資質を身につけることができるようクライアント企業のマネジャーひとりひとりをサポートしています。経営層の仕事は「表現」することであると言っても過言ではありません。特に日本人は「解釈の幅が狭い表現」をすることに慣れていませんので、この点では、大きなチャレンジとなります。

 部門内と部門間では日々のコミュニケーションの量が異なります。日々のコミュニケーション量が少ない部門間での連携行動の効率と効果を高めるためには、明確な「表現」が不可欠です。「思考が見える」状態を作ることが必須なのです。お互いが「自分の頭の中を見せる」行動をとり合えば、相手は速く明確に理解することができます。不明確な表現だと相手は理解に時間がかかるだけでなく一種の不信感(=裏に何かあるのでは?)をもってしまうことにもなるのです。そして、相手は徐々に実務的に面倒くさいと感じ、結局は「今は忙しいからちょっと・・・」という具合に行動にブレーキをかけてしまうのです。

 相手を説得できる、相手がイメージアップしやすい、あるいは、相手をその気にさせる「表現」で「思考を見せる」ことが連携行動の鍵といえます。

ホワイトカラーや“川上”の仕事をする人の思考は見えにくい

 また、組織の中では、作業現場(ブルーカラー)よりも事務所(ホワイトカラー)の方が通常、働く人の思考が見えにくいです。機能という点では、川下の仕事(下工程)よりも川上の仕事(上工程)の方が通常、働く人の思考が見えにくいのが実態です。つまり、知識集約型の仕事をしている人の方が、思考が見えにくいのです。その結果、お互いが誤解や勝手解釈に陥り、仕事の「手戻り」や「停滞」という時間の無駄を引き起こし、知的生産性を下げてしまっていることが実に多いのです。ホワイトカラーや川上の仕事をする人は「しゃべる」専科になりがちです。しかし、口頭の会話だけでは、お互いに言葉を翻弄して“空中戦”になることが多く、結果的に理解しあえていないことが多いのが実情です。頭の中で考えていることを文字、表、計画、構造図、ポンチ絵などを書いて手元で明確にし、そのうえで、相手に対して表現する習慣を身につけていくことが大切なのです。


次回は、部門間の連携行動を強化する活動を進めていく上での具体的なポイントをお話します。