株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
目標は「もつ」のではなく「書く」のがよい
「目標をもっている」人は多いかもしれませんが、「目標を書いている」人は実は少ないのが現実でしょう。人生、キャリア、職場の業務に関わらず、達成したい状態イメージを「書いて表現する」とその目標の実現性は高まります。具体的で、シンプルな言葉であればなおさらです。さらに、書いた目標は日常的に自分の視界に入る場所で保管し、自分にとって「見える状態」を作っておくと効果的なのです。なぜなら、物理的に自分の外に保存されている「目標」という情報が、頻繁に見る視覚的な行為の繰り返しをとおして潜在意識の領域に入り込み保存され、強く「意識づけ」されるからです。目標を書かずに「もっている」人は、頭の中で目標を記憶として保存している人です。ただ、頭の中の記憶は持続性に欠けますので一時的な「意識づけ」は可能でも、「意識している」状態を続けることは難しいのです。一般的に人が「意識しています」という表現を使う時は「頭の中の記憶として保存しています」ということを意味していることが多く、記憶のみに依存するため、「意識している」状態は不安定にならざるをえませんし、結果的には「意識できていない」ことの方が多いといえます。一方で、目標を書いて、頻繁に見るようにすれば、書いた目標は消さない限り残りますし、視覚に訴えることで潜在意識の領域に深く植え付けられることになり、「意識している」状態の安定性は自ずと高まるのです。
そもそも、目標とは自分の「欲望」や「意思」を明確にすること
人は生まれてからの成長過程の様々な段階で目標を考え、その達成に向けて努力しています。スポーツ、学業、恋愛、ビジネス、自己成長など目標を設定するテーマも様々です。そもそも目標を立てるということは、「志」や「目的意識」に基づいて「こうなりたい」「こうしたい」「こういうスキルを身につけたい」「ここまで達成したい」などの「欲望」や「意思」を自分で明確に描き、言葉で表現することなのです。人は自分の「本能」と距離が近い目標であれば、それを強く意識し、その達成に向けて本気になりやすいです。また、この場合、敢えて目標を書いて表現しなくても潜在意識の領域で保存し続けることができる可能性が高まります。しかし、「本能」との距離が遠くなる目標はそうではありません。会社組織の中で毎年設定する目標や上司から要請される成長目標などはまさにその類の目標になります。自分の欲望や意思だけでなく、上司の考えや期待が多く入り込んでくるからです。しかし、起業ではなく、組織のメンバーとして働いている限り、組織人として上司としっかり議論した上で納得するプロセスを踏まなければいけないのは、国籍を問わず必要なことなのです。
「自分」に立脚する行動を強める
特に、終身雇用という労働慣行のもとで「会社のため」「組織のため」という大義名分を優先させ自己を犠牲にする傾向が強い日本人は、職場における「目標」にはあまり意味を見いだせないものです。なぜなら、そこには本質的に「自分のため」という意味合いが薄れてしまっているからです。仮に目標が達成できなくても全て自分の責任であるとは感じず、心のどこかで、会社や上司に責任を転嫁している人が少なからずいるのが実態でしょう。その背景には、目標設定の際に、上司に自分の考えや意思を明確に伝えると「自己中心な社員」と見なされてしまうリスクもあり、結果的に、上司との議論が不完全燃焼になってしまうことがあります。さらには、就社意識のもと、「自分のため」を封印していることから、自分の考えや意思を明確に表現するための言葉や行動習慣をそもそも失ってしまっていることも十分考えられます。
他方、欧米諸国はさることながら、成長が著しい中国やアジアの人は上昇志向が強く、基本的に自分のために就職し、自分の市場価値を高めるために仕事をしています。従って、目標設定の場面でも、原則、「自分」に立脚した考え方で行動します。場合によっては、自己中心でわがままな行動にもなりえますが、優秀な人材は「自分」に強く立脚しつつ、「上司」の考えを聞き出しながら、議論をとおして、自分を上司に理解させ自分も納得するという行動をとります。この点、「会社」や「上司」に強く立脚し、「自分」の考えや意思を表現することを躊躇し遠慮する日本人の行動特性とは大きく異なります。日本人が外国人上司と仕事をする時、外国人部下をマネージする時には、自然体に回帰して、自分が感じることや考えることを率直に表現し、自分の欲望や意思をぶつけ合うことを避けない行動をとることが大切です。
「努力」は3つの行動のセットのこと
目標を明確に記述して見える状態にすれば、次はその達成に向けて努力しなければいけません。特に、自己成長目標の場合、努力する行動の質を高める必要があります。例えば、「わかりやすい言葉で具体的に表現する」という行動目標の場合、この行動をとる場面でとにかく繰り返し「実践する(=やってみる)」だけでは、本当の意味では努力していることになりません。ある程度の勇気と覚悟があれば誰でも「実践する」ことはできます。努力とは「実践する」行動の前後の行動を併せてとってはじめて効果が高まるのです。実践する前に「準備する」行動をとり、実践した後に「振り返る」行動をとることが重要です。さらに、この前後の2つの行動は強く意識してとる必要があります。具体的には、まず、「意識的に準備したこと」を素直にノートに書きとめ、そのうえで、実践し、最後に、「振り返って気づいたこと」、例えば、「準備したとおりにできたかどうか」「できなかった理由」「次はどうしようと決めたのか」などについてできるだけ率直にノートに書きとめることが大切なのです。世の中の多くの人は、実践の前後のこの2つの行動を「頭の中で反芻する形で」とっていると思いますが、所詮、これは「記憶」の領域を出ない行動ですので「意識している」状態の安定性は残念ながら低くなります。「意識的に準備したこと」と「振り返って気づいたこと」について肩ひじを張らずに感じるままにノートに書き、それを、日常的に頻繁に見ることをとおして潜在意識の領域に深く植え付けていくことこそが、「実践する行動」のレベルを引き上げていくことに繋がります。本物の努力の方程式は、「努力」=「準備」+「実践」+「振り返り」となります。ノートのメモを伴ったこの3つの行動セットを繰り返すことが、努力する行動の質を高め、目標を意識する状態を持続させることを可能にするのです。