株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
日本の企業社会では、会議で報告書を説明する場面や、あるテーマについてプレゼンテーションする場面の冒頭で、「まだ、完全ではありませんが・・・」「まだ、詰め切れていない部分も多々ありますが・・・」という「セリフ」を無意識に使う日本人が大変多いです。
この「セリフ」はオーディエンス(=聴衆)に年長者が多い場合は、日本的な「謙虚さ」として好ましく受け取られます。そして、「かわいいやつだ」「内容が少々粗くても大目に見てやろう」という聞き手の心理を誘うのです。逆に、この「セリフ」がないと、自信過剰あるいは傲慢であるという印象を与えてしまいます。そして、きびしい質問を受け叩かれてしまうのです。だから、説明やプレゼンの内容に自信があってもこの「セリフ」を使ってしまう日本人が多くなるのです。
しかし、この「セリフ」は未熟さに対する「許し」を請う表現でもあるので、この「セリフ」を頻繁に使っていると無意識のうちに「甘え」の心理が働き、考え抜く緊張感を緩めてしまうことにもなるのです。そうすると、内容が中途半端になりはじめ、徐々に自信がなくなり、結果、話を終えた後に質問や意見を受けることが怖くなり、その後の議論を避けるようになってしまうのです。
他方、海外で、オーディエンスが外国人の場合、この「セリフ」を使うと、オーディエンスが日本人の場合と違い、「自分で完全だと思える状態にしてから話して欲しい」「詰め切れていない話をわざわざ聞くのは時間がもったいない」というような印象を抱かせてしまいます。にもかかわらず、発表やプレゼンを続けると、(本人も認めているとおり)粗が多いという前提で嵐のように質問をうけることになります。場合によっては、最後まで話しができず、途中で「出直し要請」を受け、退散せざるをえなくなることもあるのです。
このように、日本的な「謙虚さ」が裏目に出ると、自分の価値を下げてしまうことになります。一度、想定外に落ちてしまった自分の価値を取り戻す努力に要する時間は、残念ながら無駄な時間です。このような状態に陥らないためにも、オーディエンスが外国人の場合は、日本的謙虚さを表す「セリフ」を使わず、「考え整理してまとめたことをお話します」とさっと切り出し、堂々と自信をもって話をすればよいのです。そして、話の締めくくりに、「以上で発表は終わりですが、ご質問やご意見がありましたら、遠慮なくおっしゃってください」「率直な議論ができればと思います」と「謙虚に」言えばよいのです。そうすれば、通常は、フェースTOフェースあるいはメール上で率直な質問や意見が飛び交い、結果的によい議論が起きるものです。
世界仕様の「謙虚さ」とは、話を聞いてもらった「後」に、質問だけでなく、異論、反論も含めて率直な意見を受け止め、オープンに議論する用意と余地があることを伝えることなのです。プレゼンの場だけではなくメールでもしかりです。このような世界仕様の「謙虚さ」を表すメールでの表現としては、英語であれば“Please do not hesitate to contact me if any other ideas and thoughts”というような表現例が一般的です。このような表現が加わってない場合は、外国人でも世界仕様の「謙虚さ」に欠ける人だと思います。実際のところ、そのような人はいます。苦笑。
日本人が外国人と対等に対話し仕事をするためには、世界仕様の「謙虚さ」を身につけることが大切です。最初に「謙虚さ」を示すことで異論、反論を受けることや議論を避けていてはいけません。伝える内容の論理と構成をしっかりと考え抜き、自信をもって話した後で、反対意見も賛成意見も想定したオープンでフェアーな議論をする「謙虚さ」を身につけることが、日本人にとっての今後の大きな課題でありチャレンジともいえるでしょう。
3つ目は、常日頃、日本人駐在員から上から目線でガミガミ言われている中で、現地人材が日本人駐在員を感情的に受け入れられなくなり、早くその場から退散したいと感じているケースです。このケースの「はい、わかりました」は、「はい、(あなたが上長として執拗に命令をしていることは)わかりました」という意味で、期待されている「内容」がわかったということではないのです。この場合、会話がかみ合う確率は極めて低くなりますので、まずは、「自責」で感情の「もつれ」を解く努力をしなければいけません。
現地社員が「はい、わかりました」と返事したときには、3つのどのケースなのかを見極め、自分がとる次の行動を決めることが大切なのです。