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~「仕組み」と「人」と「場」をつくる~人事と組織のマネジメントーー第40回 日本人の集団力は世界一か?

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2012年09月18日

株式会社 J&G HRアドバイザリー
代表取締役社長 篠崎正芳
 

 日本人の集団力はお家芸(=最も得意とすること)であるとはいえますが、世界で一番とはいえません。仮に、集団力とは同調力である、と定義すれば、日本人の集団力は世界一でしょう。笑。

 かつて、日本企業の集団力が世界市場を席巻した時代があります。バブル崩壊までのいわゆる右肩上がりの時代です。バブル最盛期の80年代後半は、まさにJapan As No.1でした。経済の勢いがあったのは事実ですが、それ以上に、日本企業で働く人のメンタリティーと行動による集団力が日本企業を“世界一”に導いていたのです。私はその集団力を「世界を驚かせた摩訶不思議な集団力」とよんでいます。世界で類稀な「定年まで給与が上がり続けることを前提とした終身雇用」「年功序列」という慣行、そして、「会社と社員は運命共同体である」という思想が作る“不自然”で半ば“宗教的な”「安心感」がとてつもないパワーをもつ不思議な集団力を生み出し、日本企業を“世界一”に押し上げたのです。

 バブル崩壊後、多くの日本企業は失速し、約20年間、輝く出口を探しながら迷走してきました。過去の成功は人の記憶と心に深く残り続け、当時の集団力の「前提」が崩れた今でもまだ、「(あの時の)集団力で勝負できる」と考える人が少なからずいるのは驚きです。この考え方では世界で戦うことは難しいです。

 どんな組織でも集団での成果を追求している限り、そのための集団力は必要になります。では、世界で戦う「集団力」をもつうえで、今、何が決定的に欠けているのでしょうか?
 答えは「個人力」です。日本企業で働く人、スポーツ選手に関わらず、ひとりひとりのレベルで「個人力」を強めなければいけないのです。そして、強い「個人力」をベースとした「集団力」を最大化できるリーダーを作らなければいけないのです。

 女子日本代表(=なでしこジャパン)はワールドカップで世界一という快挙を達成しました。男子日本代表(=現ザックジャパン)はアジアカップでは優勝しましたが、世界のレベルにはあと一歩です。サッカーの「集団力」は着実に世界レベルに近づいています。個人力ベースの集団を率いるリーダーはいますので、残りの課題はひとりひとりの「個人力」強化でしょう。

 企業社会において、個人力が低い人たちが集まった組織には協調性や同調性が高い人が多いため、リーダーにとって組織を「まとめる」ことはさほど難しくありません。しかし、よほどの偶然性や希少性が伴わない限り、このような組織の集団力は世界で通用しません。

 他方、個人力が高い人たちが集まった組織には尖った人が多く、リーダーの仕事は大変です。「君はどう思う?」「じゃあ、あなたはどうですか?」をリーダーが繰り返していては、自己主張の嵐が吹き荒れ結論が出ません。このような組織では、リーダーが方針や考えを明確に表現し、それについてひとりひとりが自分の意見を言い、お互いにとことん議論し、最後はリーダーが判断して決める、という行動が習慣化されているのです。リーダーと合わずに組織を去る人もいますが、このような組織で育った人には個人力があるので他の組織でも十分生きていくことができるのです。

 日本の企業社会では、集団力は尊ばれますが、通常、“強い”個人力は自己の押し出しが強いことから自己中心の代名詞のもとでタブー視されています。その結果、「空気」を読んで「空気」に支配されるようになり、多くの人は言葉と自己表現を失っていくとともに、所属組織に「命」を預けてしまうことになってしまうのです。

 グローバル人材化の第一歩は、世界で戦うためには、知識、知恵、技術と生命力を伴った個人力が求められることに「気づく」ことです。