中国では、1982年の憲法改正において「国家及び社会は、盲ろうあその他身体障害のある公民の労働及び教育についてあん配し、援助する。」という条項を初めて制定し、1990年12月の全国人民代表大会常務委員会で採択された中国の歴史上初の「障害者保障法」(18年後の今年4月に改正され、新たに公布されました。)の中では、平等、参与及び共有を趣旨として、障害者の労働就業の権利を明確に規定しました。しかしながら、諸般の原因のため、聴力・言語障害者の就業難は、依然として突出した社会問題の一つであり、各級政府及び社会全体が共に関心を寄せ、解決に努力する必要があります。
2006年第2回全国障害者抽出調査の統計データに基づくと、全国にはおよそ2,131万人の聴力・言語障害者がいます。その内、上海においては聴力障害者が25.9万人(上海における障害者人口の27.49%)、言語障害者は1.1万人(同人口の1.17%)おり、就業年齢層にあり証書を有する無職の上海戸籍の聴力・言語障害者は、現在、約2,000人います。
まず、中国での聴力障害及び言語障害についての認定基準は、次のとおりとなっています。
「聴力障害」とは、各種原因により両耳に異なる程度の聴力の損失が引き起こされ、周囲の環境音及び言語音が聞こえない、又ははっきり聞こえないことをいいます。
聴力障害には、聴力を完全に喪失し、又は残聴を有するけれども音の判別がはっきりせず、聞き、話すことによるコミュニケーションをすることができないという2種類があります。
聴力障害のレベル:平均聴力損失:言語識別率(%)
1級: >90: <15% 2級: 71~90: 15~30% 3級: 61~70: 31~60% 4級: 51~60: 61~70% |
「言語障害」とは、各種原因がもたらした言語的な障壁により、正常な言語コミュニケーション活動をすることのできないことをいいます。
言語障害には、言語能力を完全に喪失し、又は言語能力の一部を損失し、正常な言語コミュニケーションをすることができないという2種類があります。
言語障害のレベル:発声の明晰度(%):言語表現能力
1級(簡単な発声のみでき、言語能力を完全に喪失している。): 10%:1級テストレベルに達していない 2級(一定の発声能力を有する。):10~30%:2級テストレベルに達していない 3級(発声能力を有する。):31~50%:3級テストレベルに達していない 4級(発声能力を有する。):51~70%:4級テストレベルに達していない |
生理的な原因に制限され、聴力・言語障害者の多くは、普通学校ではなく特殊学校での義務教育を受けていますが、両学校には大きな違いが存在し、このことが聴力・言語障害者の文化的素質の低下、ひいては就業難を招く主要原因の一つとなっています。人類の社会の発展から見ると、音声は直接に人々の進歩に影響を与えてきていますが、聴力・言語障害者は、この最も貴重な聴力を失ってしまっているのです。けれども、聴力・言語障害者は正常な知力と健全な四肢、健康な視力を持っており、他の障害者とは違った有利な面があります。聴力・言語障害者は、聞くことも話すこともできませんが、言葉を書くことができ、それによって話すことと同様の目的を達することができます。加えて、彼らは「手話」により会話をすることもできます。手話による会話は、外国人との会話に外国語の通訳を介する場合と同様に、他者との交流を可能にする効果があります。目下のところ、多くの人々は書くことによる会話に慣れておらず、また、聴力・言語障害者以外の人々の間での「手話」の普及率の低さが、コミュニケーションの困難を招き、聴力・言語障害者の就業にとって障壁となっています。この障壁を完全に取り除くには、全社会の各方面からの共同参与が必要です。
現在、上海では既に多くの企業が分散就業の形式で、それぞれ聴力・言語障害者を雇用しており、それらの企業の従業員は、「書く」ことによって聴力・言語障害者とコミュニケーションをとり、日常の仕事をこなしています。多少の手間を要しますが、双方は互いに打ち解けることができています。ある聴力・言語障害者は、IT関係の仕事を何の問題もなくこなしています。企業内において基本的に個別のパソコンを有していることから、会社の従業員はインターネットを通じてQQ【1】やメール等を使い、コミュニケーションをとっています。
このほか、一部の企業では集中就業の形式で多数の聴力・言語障害者を雇用し、専任又は兼任の「手話」通訳を通じて生産活動及び日常生活の指導を行っています。
上海市閔行区莘庄工業園区に位置するダイキン空調(上海)有限公司は、日本資本の企業です。当該公司は、2005年から集中就業という形で、最寄り区域において年齢20~35歳の66名の障害者を採用しました。その内、62名は聴力・言語障害者であり、生産現場の流れ作業ラインにおける最終工程に集中手配され、3つの班に分かれて昼班、夜班の交代制及び4日業務2日休暇というシフトのもと働いています。公司では、優秀な幹部を行政・生産業務の責任者として選任し、更に、退職した元特殊学校の教師を手話通訳として招き、彼らの日常的な心理的健康についても指導を依頼しています。彼らの交流は、手話又は文字によるため、全員がメモ帳とペンを携帯しています。仕事中には、その他の工程の従業員との交流は文字やジェスチャーに頼っていますが、アイコンタクトによっても互いの意図を理解し合えることもあります。公司側は更に、一部の軽度の聴力・言語障害者が話すことと発声の練習をより多く行うことによって、作業中に他の従業員とのコミュニケーションを円滑にできるばかりでなく、日常生活においても他人とスムーズに交流できるようになることを望んでいます。このような、和やかな雰囲気や快適な環境は、自主性を重んじた管理方法の体現ということができます。公司の第2製造部製造2課の張思海課長(障害者従業員の直属上司)によると、全生産現場の従業員72名は、同一の業務・報酬・要求のもと業務に従事しており、一致団結し、また、努力して仕事をし、2007年には285万元の利益を創出したとのことです。また、これらの経験から、従来の「障害者の就業は特別の配慮が必要であり、援助を必要とする福利事業である」との古い観念を完全に捨て去り、障害者にも彼ら自身の価値があり、企業に利益をもたらしてくれるという新しい価値観を確立することができたそうです。
生産現場を訪れた私たちの第一印象は、「環境はゆったりとしていて衛生的で、従業員の業務の様子は熟練し、きびきびしている。また、彼らの表情は生き生きして元気に満ちている。」というものでした。私たちが近づいていっても、彼らはまったくよそよそしくなく、微笑みながら、手に携えたカメラで写真を撮ってくれた従業員もいました。その様子はまるで既知の友人であるかのようで、瞳にはリラックスし喜びにあふれた気持ちが表れていました。
私たちは、ここで、瀋さんという1人の女性従業員にインタビューを行いました。彼女は既に3歳の子供の母親であり、夫も同じくダイキンで働いており、また彼はダイキンのイメージ大使の一人でもありました。彼女は、幼いときに病気により両耳の聴覚を失い、特殊学校での義務教育を修了後、障害者連合会の紹介でダイキンに入社し、勤務期間は既に2年8ヶ月になります。また、結婚生活は円満で、幸せであるとのことでした。彼女はパソコンについてはあまり詳しくありませんが、それでもパソコンを通じて情報を得、メールを送信したりゲームをしたりすることはできます。加えて、QQを利用してコミュニケーションをとることもでき、充実した生活を送っています。
2006年12月に行われた上海市障害者労働サービスセンター及び上海社会科学院情報研究所の抽出調査によると、上海における聴力・言語障害者の就業先は44の業種にわたり、その内、就業人数が10%を超える業種は、小売業(13.66%)、通信設備及びコンピュータその他の電子設備製造業(10.93%)並びに飲食業(10.38%)の3業種であり、このほか、アパレル紡織、靴・帽子製造業は7.65%、その他はいずれも5%を下回っています。
上海での聴力・言語障害者の就業は31の職位に分布しており、その内、就業人数が10%を越える職位は、行政事務人員(13.66%)、電子デバイス及び設備の製造、組付け・調整試験及びメンテナンス人員(11.48%)並びに倉庫人員(10.38%)の3種、8%~9%であるのは、金属の精錬及び圧延人員、裁断縫製及び皮革・毛皮製品加工製作人員並びに飲食サービス人員の3職位で、その他(室内外広告設計、パソコンネットワーク管理、ソフトウェア開発、工芸品製作、レイアウト印刷、茶芸、会計等)はいずれも5%以下となっています。
また、調査の統計結果及び潜在的職位の生まれる主要要素及び条件の分析に基づき、「中華人民共和国職業分類大典」を参照したところ、聴力・言語障害者に適する、将来的に開発可能な潜在的職位には、コミュニティ・ヘルスワーカー、養老介護員、コミュニティの環境保護員や廃棄物資回収員、業務アシスタント、青少年指導員、また、家電製品のメンテナンス員、建築模型設計・製作員、旅行工芸品設計・製作員、アニメ製作員、ネットワーク編集員、ペット健康介護員という12の職位があります。
上記のように、聴力・言語障害者の就業空間は広いものであり、社会の各方面が努力さえすれば、より多くの職位を創造でき、無職の聴力・言語障害者が就業してその生活を改善することができます。そして、彼らの能力が業務要求に適合する場合には、社会の各方面において、それぞれの状況に応じて彼らに仕事をする機会を与え、聴力・言語障害者が自らの努力によって期待に応えてくれると信じることが大切でもあります。彼らは、その信任に対し、一生の忠誠で応えてくれることでしょう。聴力・言語障害者にとっては、仕事が必要であるばかりではなく、社会の支援と関心も必要なのです。彼らに就業という機会を提供することは、聴力・言語障害者が自らの能力を発揮して社会や企業に報いることを手助けするだけでなく、社会の安定と調和のために貢献することにもなるのです。
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CSR部 林偉