キャスト中国ビジネス

知的障害者の就業事例

限定コンテンツ
2008年10月24日

 障害者は、その障害により苦しみを受けていながらも人類の発展に貢献している、社会的弱者の中でも特殊な集団であり、決して社会にとっての重荷ではありません。現在、全国には各種障害者が8,296万人おり、総人口の6.34%を占めています。この数字は、全国の5分の1の世帯数に相当します。

 中国では障害者の就業を促進すべく、2007年2月25日、国務院は「障害者就業条例」を公布し、さらに今年4月24日には「障害者保障法」が改正されました。政府がいかに障害者問題に関心を寄せ、重視しているかを読み取ることができ、同時に、障害者に対する法的保障が徐々に整備されていることを知ることができます。

 上海の障害者就業事業は、政府参加、政策の一体化、法的指導と、市や区、県の障害者連合会及び障害者労働サービスセンターの一方ならぬ支持のもと、各業界・業種の積極的な協力及び努力により多くの成功を収めており、社会の各方面から肯定的な評価を得ています。

 しかし、社会と経済発展の不均衡、及び一部の企業にとっては情報が十分に行き届いていないことから、障害者の状況に対する理解と障害者の能力についての認識が不足しており、これにより障害者を雇用することに自信を持つことのできない状況も生まれています。

キャストコンサルティングCSR(企業の社会的責任)事業部は、障害者の就業促進を目的とし、関連政策及び法規の学習と理解、並びに成功企業へのインタビューを通じ、客観的で事実に基づいた活動を行っています。今回は知的障害者の就業状況について、上海の合弁企業であるYCC拉鏈有限公司と米スターバックスの事例をご紹介いたします。

■知的障害者とは?

 そもそも、知的障害者とはどのような人たちを呼ぶのでしょうか。中国における知的障害者の認定基準は、次のとおりとなっています。
知力障害とは、知力が一般の人々の水準よりも低く、適応行為に障害が見られることをいいます。中国では、知力障害を次の4つの等級に分けています。(IQ=知能指数)

 重度1級IQ<20
重度2級IQ=20~34
中度3級IQ=35~49
軽度4級IQ=50~69

 重度1級、2級及び中度3級の知的障害者は、身体的条件の制限を受け、ふさわしい仕事を探すのが困難であるため、区(県)政府が基本的生活の保障をしています。軽度4級の知的障害者は、適切な職務であれば、大よその場合において業務に従事することができます。彼らは独力で出勤・退勤し、区を越えた業務もこなすことができ、また、外見は健常者となんら変わりないため、企業の従業員たちの中にすんなりと溶け込んでいます。そのほとんどは20~35歳であり、特殊学校卒業者もいれば、「陽光の家」や「陽光工場」で勉強し、育成訓練を受けた者もいます。彼らは礼儀正しく純朴でまじめであり、新しい物事に容易に順応します。

 「陽光の家」及び「陽光工場」とは、上海市の各級政府が出資・運営する福利企業として、市全体で約240ヶ所設立されており、11,500人ほどの知的障害者を受け入れています。育成訓練を経た障害者は、市の各企業・事業団体に就職することとなり、現在は32の業種、25の職位で、簡単な作業に従事しています。

 製造業や商業等の企業・事業団体における知的障害者の就業比率は60%以上に達しており、その業務内容は、簡単な生産、加工、仕分け、組立、運送、設備メンテナンス、倉庫整理、貨物配送、秘書アシスタントとしての簡単な行政事務処理、清掃等にわたります。

■就業事例①-YCC拉鏈有限公司

 上海東龍投資集団の所属するYCC拉鏈有限公司は、現在、知力、肢体、聴力及び言語障害者を合計60名ほど雇用しています。雇用されている障害者の大部分は、バス1路線内の会社近くの区域で居住し、毎日独力で出・退勤して健常者とともに比較的簡単な最終過程での作業に従事し、分散していると同時に相対的に集中している環境で仕事をしています。

 その就業規則は、毎日日勤8時間、週休2日、原則として残業や早・中番の交代はなく、割当分の70%を基準とし、それを超えた部分は報奨のベースとなります。従業員同士の折り合いは非常によく、これまでに差別が発生したことはありませんが、障害者従業員の特殊性から、管理においては問題が存在し、特に、現段階では交流の際に書面による文字を通じて疎通を図っているため、時間がかかり、労力も費やさねばならない状況となっています。

 前述の問題点に対し、企業側は雇用規模を拡大して手話通訳及び専門管理者を手配し、障害者の状況に合致する訓練メカニズムと報酬制度等を確立する計画であるとのことです。(上記内容については、労働組合主席顧桂章氏、人力資源部主管匡金潮氏、生産現場主任馬氏から、ご紹介いただきました。)

■就業事例②-スターバックス

 飲食サービス業では、知的障害者の就業比率は4分の1にも達します。代表的なところでは、グランドハイアット、シャングリラ、マクドナルド、スターバックス等において、知的障害者がサービスに従事しています。

 私たちは、スターバックスの新天地店内で、1人の女性従業員に簡単なインタビューを行いました。1年前、特殊学校を卒業した彼女はスターバックスに入社し、その他の同僚とともに研修を受けた後、従業員として業務をスタートしました。

 彼女は職場の付近に住んでおり、毎日8時間勤務、早・中番のローテーションで、週休2日、レジを担当する以外にも他の同僚と同じように作業ができ、特別な配慮を必要としない仕事振りでした。周りの同僚たちも、彼女を仲間として一緒に業務に励み、互いに激励しあっています。

 上海統一星巴克咖啡有限公司人力資源部マネージャー王志毅氏のお話によると、当該公司は、軽度知的障害者を約30名雇用し、各支店に配属しています。彼らは毎日独力で出・退勤し、バスに乗り区を越えて仕事をしている従業員もおり、皆若く、体力が充実しており、健常者との違いはそれほどないとのことです。

 すべての従業員は、スターバックスの体系的な養成訓練を経て業務に耐え得る能力を身に付けることができます。また、すべての従業員を平等に扱うという点から、同一業務同一報酬を実施し、平常心で各従業員に対応することにより、特殊な待遇や多くの基準は設けていないとのことです。

■まとめ

 この事実は、軽度の知的障害者が社会活動に参加でき、自活できることを証明しています。上海市障害者労働サービスセンター及び上海科学院情報研究所が合同で行った抽出調査によると、将来的に開発可能な知的障害者にふさわしい潜在的職位には、コミュニティの環境保護員や廃品回収員、居住者への生活サービス員等があるとのことです。

 知的障害者に対する理解を深め、彼らの就業を拡大することは、社会全体の責任であり、義務でもあります。知的障害者の基本的な権利と利益を守り、その生活状況を改善するためには、彼らの就業から着手する必要があり、その際には、知的障害者ができないことに目を向けるのではなく、できることに注目しなければなりません。そして、知的障害者が社会に順応する条件と彼らを受け入れる社会環境を作り上げ、知的障害者が社会生活において社会のために財産を築き、自らのためにも富を蓄積して、自己の生活水準を高めるという目的に到達させることが必要です。

 今回のインタビューで最も印象深かったのは、企業が自身の発展について長期的計画を構想しているばかりではなく、社会に対する非常に強い責任感も併せ持っていたことです。これら企業が、障害者を雇用してその就業を拡大することにより、社会に還元を図っていることは、賞賛に値する行為であるということができます。(了)

 

キャストコンサルティング(上海)有限公司
           CSR部  林偉